私のオピニオン
田崎真也

国際ソムリエ協会会長、株式会社サンティール代表取締役会長

「世界最優秀ソムリエコンクール」(1995年度)で日本人として初めて優勝して以来、第一線に立ち続ける田崎さん。修業を積んだ欧州の食文化や制度の成り立ちを例に、農畜産物のブランド化や日本人の食の在り方について提言します。

無名の町や村が世界中に知れ渡り、住人は土地に愛着を深め、誇りを持つようになります。

ブランド化の始まりは偽装防止

 農畜産物の地域ブランドについて考える際、フランスの「原産地呼称統制制度」の成り立ちが参考になります。この制度は生産条件や過程、品質などの規定を満たした食材を、その土地のブランド品として認めるものです。
 当初の目的はいわゆる産地偽装を防止するものでした。有名になると、その名称を使って品質の劣った類似品が出回ることがあります。規定を設けてブランドの価値を保ち、その土地で生産されて規定をクリアしたことを示すために産地を含む表示をして、消費者に分かるようにしました。
 規定は一定水準の厳格性があると、価値や特性が保たれます。これが品質保証につながりました。特に欧州は地続きですのでブランドは、産地と消費者との信頼を築く非常に重要なものとなっていきました。
 人口数百人の無名だった町や村の名前が、世界中に知れ渡ると、住んでいる人たちは生まれ育ったその土地に愛着を深め、誇りを持つようになります。そのことが地域おこしにつながり、さらに生産力を上げようとします。こうして農村部に制度を利用した好循環が生まれたのです。

食材に愛着と誇りを

 日本の農産物でもブランドづくりは全国的に行われ、産地名などの特性を示す表記があります。
 ただ、その取り組みの多くは行政や団体、業者が主体になっていて、主役であるべき農家をはじめ住民の存在感が薄い気がします。農産物をブランド化するときに大切なのは、まずは土地の人たちが、その食べ物を素晴らしいと思いながら毎日のように食べて、誇りを持っている“土壌”があることです。
 自慢の品を守っていく気持ちがベースにあれば、仮に品質の良くないものが出回ったときに、「勝手に俺たちのブランドを名乗るな」という声がおのずと上がります。そうして規定の厳格性が高まって品質や価値は洗練されていき、消費者の信頼が確保されていくのです。
 ブランド認定の規定についても厳格性がなく、おいしさの裏付けが曖昧で疑問を感じるものが少なくありません。規定の内容に大きさ、色つやなどの外観が不必要にあったり、野菜なのに糖度ばかりにこだわったりするというのは本来の意味からは外れていると思います。
 単に産地名を表示しているだけでは、あまり意味がありません。消費者にもブランドの意義や目的などの価値がなかなか伝わらず、最終的に産地を潤す本来の目的を達成することは難しいでしょう。

GIは規定の厳格化が鍵

 産地名などを含んだ特産物の名称は地理的表示(GI)保護制度で統一しようというのが、世界的な潮流です。ワインだとオーストラリアがGIを取り入れる形で国内のいわゆるワイン法を改正し、ラベル表示の厳格性を高めて輸出を伸ばしました。
 日本でもようやく制度化され、12産品が登録されました(平成28年3 月29日現在)。ただ、日本のGI は、国際的に見れば規定が甘いと言わざるを得ません。表示が国際的な信頼をより高めていくには、もっと厳しい規定を設けた方がいいでしょう。
 その際、土地の人たちが自ら規定を厳しくしていくことが重要です。自慢の品ですから。ワインのロマネ・コンティのような等級付けも参考になります。品質の高さを保証する表示ができれば米をはじめその他の農畜産物も、国際的な販路は広がるはずです。また、GIは一般の消費者にほとんど知られていません。表示の有効性を高める前提として、目的や理由、生産過程などを伝える努力も必要です。
 GIに登録されれば輸出が当然視野に入ります。マーケティングや残留農薬など規制に関する調査や申請などが必要になりますが、個人の農家では対応に限界があります。農家と輸出先の仲介役として、それらを一括して担うシステムが必要です。海外流通の拠点となり、個人農家の輸出を支援する――。これこそがJAグループに求められる役割でしょう。

自慢の品を守りたいという住民の気持ちが、ブランドの品質や価値を洗練させていきます。

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