私のオピニオン
湯浅 誠

社会活動家、法政大学教授

現在の貧困について「経済的な厳しさと社会的な孤立が結び付いている」と分析する湯浅さん。政府による社会保障の充実が見込めない中で、人と人がつながる新たなコミュニティーづくりの必要性を呼びかけます。

貧困の放置は、犯罪の増加や社会保障費の負担増につながり、社会全体の損失を招きます。

外部から「見えない」貧困

「日本国内に貧困は存在しない」「海外の貧困、所得格差に比べれば、問題は存在しないに等しい」――。日本ではかつてこんな論調が主流でした。しかし、現実には貧困と所得格差が広がってきました。世帯ごとの所得から推計した相対的貧困率は2012年で16.1%と、1985年の12%から上昇傾向が続いています。「貧乏」は昔からありました。特に、高度経済成長期前は、あばら家で暖房器具は火鉢しかなかったり、日々の食料品を確保できなかったりということはよくあり、みんな貧しかったともいえる状況でした。その頃に比べれば物はあふれ、便利になっていることは間違いありません。
 一方で、地縁や血縁による人間関係が薄れ、孤立する人が増えており、「無縁社会」という言葉も生まれました。経済的な厳しさと、社会的な孤立が結び付いているのが、現在の貧困問題の特徴です。「自己責任論」を主張する方もいますが、精神的に追い込まれるのはかなりきついことで、個人の頑張りだけでは打開できないどころか、頑張ろうと思えない、夢や希望を持つことができない状態に陥っているのです。しかも、家庭内のことなので外部からは「見えない」のです。
 都市部に限らず、地方でも貧困は存在しています。例えば、8050(はちまるごまる)問題。80歳代の親と50歳代の子どもが同居している世帯で、子どもが無職、親の年金だけが頼りというケースが結構あります。介護をしている人は、経済、精神ともに追い込まれていて、これから深刻なケースが増えそうで危惧しています。また、貧困を放置することは、犯罪の増加や社会保障費の負担増につながり、社会全体の損失を招くことになります。

被災地の経験を生かそう

 貧困は目の前にあり、すぐに解決しなければならない問題です。しかし、社会保障費の財源は十分でなく、年金の支給額増や医療や介護の無償化といった対策をすぐに実現するのは難しい。では、私たちにできることは何か。新たなコミュニティーをつくる、もしくは既存のものを再構築して、人と人のつながりを強化することだと思います。人と人がつながり、より多くの人が「頑張ろう」と思うことができる社会を目指して、私はNPO法人などの仲間と共に活動してきました。
 つながりをつくった例として、被災地住民の経験が大きいと思います。未曽有の被害が発生した東日本大震災では、生き残った方たちも仮設住宅での暮らしを強いられ、その中で苦労されながらコミュニティーを構築し、住民の孤立化を防いでいます。
 私が何度も訪れた岩手県釜石市でも、仮設住宅に自治会が設けられていました。そこでは当初、リーダー的な方が仮設住宅を抜けるなどで、自治会長の引き受け手がなかなか決まりませんでした。最終的に就任した方も、仕方なく引き受けたわけで、あまり前向きに活動していませんでした。ところがあるとき、孤独死が起きてしまいます。それからは、その会長さんは「こんなことは二度とあってはいけない」との思いで、毎日声かけをするようになりました。
 遠隔地にいる被災住民が交流を深められる仕掛けも、あるといいと思います。私は、釜石市と岩手県北部にある野田村の被災住民を引き合わせたことがあります。似たような体験をした人同士は気持ちが通じるようで、私たちNPOに見せる顔とは明らかに違っていて、感情があふれ泣きだしてしまう人さえいます。熊本地震の被災者と東北の方々との交流も企画したいと思っています。
 ただ、イベントなどを企画しても参加したがらない出不精の方は、どこにでもいるもの。特に男性に多いですね。だから「ちょっと力を貸してください」というような声かけをする。ポイントは「しょうがねえな」と言わせられるような仕掛けを設けることですね。

幅広い年代が集う「交流の場」を

 貧困が子どもにも及んでいる中で、注目を集めているのが「子ども食堂」です。子どもに無料か安価で食事を提供するもので、ボランティアで運営されています。爆発的に増えていて、全国で300か所あります。「子ども」という言葉が強調されがちですが、対象の世代を子どもに限定しなくてもいい。幅広い年代の人が、誰でも気軽に顔を出せるような共生型の施設、コミュニティースペースがあるといいですね。
 新しく箱ものを造る必要もありません。例えば、お寺に協力してもらうのはどうでしょうか。全国に約7万7,000か所もありますし、大勢の人が集まるための場所や食事を提供するための調理場も整っています。毎日ではなくても月1回でもいい。
 地方創生では、6次産業化だけでなく、こうしたソフトインフラをつくる、もしくは再構築することも大事なことではないでしょうか。

コミュニティーに参加してもらうには「俺がいないと始まらないな」と思わせる仕掛けが重要です。

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