女性の起業や研究など形のないものにも投資を。土地、建物だけが投資対象ではありません。

地縁、血縁、社縁以外の人間関係を

 女性がこれからの社会で、生き生きと暮らすためには、地縁、血縁、社縁という伝統的なつながりに、志(こころざし)を共にする人たちのネットワークを加えることが大切でしょう。趣味のサークルや生協活動など何でもよいのですが、私は「選択縁」と呼んでいます。従来のつながりとどこが違うかというと、「何事も皆さんご一緒に」としない、つまり自分たちが選び合う人間関係の中で、活動するということです。これはボランティアの3原則でもありますが、①やりたい人がやる、やりたくない人はやらない、②やりたい人は、やりたくない人に強制しない、③やりたくない人は、やりたい人の足を引っ張らない――というものです。
 昔の農村社会は共同体としての統制が働いていました。つまり、食い扶持ぶちを稼ぐための生産手段を、田植えや稲刈りなどといった共同労働を通して統制していて、“ムラ社会”から抜けたら生きていけませんでした。でも、今は農作業の機械化が進み、水路の管理やあぜの草刈りなど一部では残っていますが、共同労働による統制体制は解体しています。農作業の単位は、共同体から世帯になり、個人にまで縮小しています。「皆さんご一緒に」というのは、相互監視型の“ムラ社会”と同じ精神構造です。絆とか地域コミュニティの復活が叫ばれていますが、“ムラ社会”に戻りたいと思う人はいないでしょう。
 また、日本では投資の対象というと、土地や建物など形の見えるものに限定して考えがちですが、起業や研究など形の見えないものも当てはまります。私たちのような研究者は、研究テーマをアドバルーンのように挙げて、そこに先行投資してもらいます。成果にお金を出してもらうのではありません。女性農業者による6次産業化も、投資すべき対象であり、JAにはぜひ応援してほしいと思います。

医療、福祉は地域の重要産業

 女性が元気で、地域社会の活気も維持しているのが長野県佐久市です。JA長野厚生連佐久総合病院(佐久市)を中心にして、住民の健康を支える体制が整っているだけでなく、医師、看護師、介護、厨房など多くの雇用を生んでいます。看護師の資格を持った女性は常勤であったり、非常勤であったりと、それぞれのライフスタイルに合った働き方をしています。外部から来たこれらのスタッフが家族を形成して定住することで、出生率も維持しています。つまり、医療・福祉が地域の巨大産業としての性格を持ち併せているのです。日本創成会議が発表した消滅可能性自治体にも入っていません。
 地域社会と女性の関わりが深いテーマとして、NPOや任意団体、地域住民などが運営する「コミュニティカフェ」にも注目しています。これは、志のある人が集まって、高齢者や子育ての支援、まちづくりなどに取り組む場で、「地域の茶の間」「街の縁側」とも呼ばれます。気軽に立ち寄って交流を深めながらも、必要以上にプライバシーに立ち入らない関係が受けて、近年急速に増えています。ただ、場所の維持や運営費などの負担も重く、地元自治体からの補助金なしでは継続が難しい現実もあります。
 九州のある生協は、デイサービス事業に取り組む際に土地と建物は生協の名前で借りて、事業運営はワーカーズ・コレクティブ(労働者が共同で出資して、対等な立場で経営に参画して地域社会に貢献する事業を行う組合)に委託しました。運営者はランニングコストだけを考えればよいので、参入のハードルはかなり下がります。さらに、生協組合員の寄付と売り上げの一部を、福祉活動を支援する基金として積み立て、介護事務所の創業支援につなげています。組合員やNPOの取り組みを、生協のように資金力のあるJAが創業支援してくれれば、大きなうねりが生まれるでしょう。
 最後に繰り返します。女性に農村に来てほしいなら自由に活動できる環境を整えてください。皆さんのJAは「女性にとって魅力がない組織ではないだろうか」と危機感を持っていますか。危機感のない組織はじり貧になって滅びるだけです。

うえの・ちづこ

1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。1995年から2011年3月まで東京大学大学院人文社会系研究科教授。現在、立命館大学特別招聘教授、東京大学名誉教授、認定NPO法人ウィメンズ アクション ネットワーク(WAN)理事長。女性学、ジェンダー研究のパイオニアであり、指導的理論家のひとり。高齢者の介護問題にも関わっている。1994年『近代家族の成立と終焉』でサントリー学芸賞受賞。「女性学・フェミニズムとケア問題の研究と実践」の研究が評価されて2011年度朝日賞受賞。著書に『おひとりさまの最期』など多数。

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