私のオピニオン
杉浦太陽

俳優

訪ねた産地の数は500か所以上――。テレビ番組の収録などで全国の食材と農家に出会ってきた杉浦さん。「食材だけでなく、農業の素晴らしさ、日本の良さを伝え、地域の魅力にもっと焦点を当てたい」と日本農業・農村の応援団として意気込んでいます。

食材と土地の結びつきって面白い。伝統野菜には土地の個性と歴史が詰まっています。

農家の責任感とプライドに心を打たれる

 テレビ番組の収録などで数多くの産地を訪ねてきました。プライベートも含めると500か所以上に足を運んでいます。
 番組で農家さんを訪ねると2〜3時間ほど一緒にいて話を伺います。いろいろなスタイルの農業に触れさせていただく中で、農業の奥深さや土地の新たな魅力を発見することができ、とても幸せです。そして、皆さん自分たちの仕事に大きな誇りと情熱を持って農産物を作っていて、おいしくて魅力的な食材は、農家さんの努力の表れだと知りました。
 小学生のころから食をテーマにした漫画が大好きで、夢中になって読んでいました。今思えば、食材と土地の結びつきへの視点が芽生えることにつながっているのかもしれません。今まで出会った多くの食材の中でも、特に各地の伝統野菜が強く印象に残っています。伝統野菜は、その土地の個性そのもので、歴史や物語がたくさん詰まっています。
 例えば、「会津小菊南瓜あいづこぎくかぼちゃ」(福島県・JA会津よつば管内で栽培)。ねっとりとした食感が特徴なのですが、ほくほくした食感の品種が主流になるにつれて栽培する人が激減し、市場流通することもなくなりました。しかし、ある農家さんが一念発起して復活させたのです。
 最初のころは直売所に持ち込んでも、売り場の端に並べられて、個性という商品価値がなかなか認められませんでした。注目を集めるようになったきっかけをつくったのは、地元の農業高校生でした。栽培方法を教えてほしいと訪ねてきたそうです。農高生たちは、熱意あふれる農家さんを“師匠”と呼び、真剣に栽培に挑戦したそうです。一体的な取り組みが少しずつ消費者に浸透していった復活劇を、その農家さんは涙ながらに語ってくださいました。涙の裏にある、「地域の野菜とその歴史を絶やしてはいけない」という、責任感とプライドに心を打たれました。それからは、「その土地の、そこにしかない」というフレーズに出会うたびに、興味のボルテージがぐっと高まるようになりました。

現場で伝わるJA職員の思いと熱意

 伝統というものは、守りつつ、進化させていくものだと思います。「守る」と「進化」は一見、対立するようです。しかし、農業や地域を愛しているという根本の気持ちが同じであれば、その愛情から生まれる行動は、伝統を守ることであっても、進化させることであっても、結果的に同じ意味合いとなっていくのではないでしょうか。
 多様な農家さんがそれぞれの思いで農業や地域に向き合い暮らしています。最近は高齢化で耕作放棄地が多いと聞きますが、新規参入も活発なようです。全国の農家さんとの出会いは、多様な愛情が日本の農業を支えていることを実感させてくれます。
 農業を観光資源と捉えることも愛する気持ちの表れと言えるでしょう。最近、観光の側面を持つ農業に、より大きな魅力を感じるようになりました。
 日本には四季があり、季節の移ろいとともに、優しく、美しい農村風景が広がります。しかし、その風景が優しく美しいのは豊かな自然があるからだけではありません。「農家さんが農作物を作って、森林を大事にして暮らし続けているから」。言うなれば、農家さんは農村というキャンバスに、農作業を通じて芸術作品を描いているのです。これが僕なりの答えです。この点について消費者は、見つめ直さないといけないでしょう。そして、日常の食を考えるきっかけにしてほしいと思います。そうなれば、日本人の食に対する考え方は、きっと変わってくるはずです。農家さんからはなかなか言いにくいことかもしれませんが、消費者と一緒に考え続けなければいけないテーマだと思います。
 観光として来てもらうには地域に関する情報発信も大事ですが、やはりそこで取れた自慢の農産物を食べてもらうのが魅力を伝えるのに一番です。そうすれば、地域社会におけるJAの存在意義や役割をもっと理解してもらえるのではないでしょうか。
 栽培指導に関わるだけでなく、都会の消費者に確実に荷が届くように、選果・出荷のシステムを整えて、果物は徹底して糖度チェックしているのを、消費者はどの程度知っているでしょうか。スーパーには、おいしい農産物が当たり前のように並んでいます。その裏に「品質の高い物を届けたい」という思いがあることを、忘れてはいけません。
 現場を走り回る職員さんからは、この土地の農産物の良さをもっと多くの人に知ってもらいたいという熱意が伝わってきます。ブランド化のスタートはその熱意にあり、地域に元気の輪を広げていると感じます。

日本の農村風景が美しいのは、農業が営まれているから。多くの人に気付いてほしい。

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