私のオピニオン
牛窪 恵

世代・トレンド評論家、マーケティングライター

“草食系”と呼ばれる若者の消費動向を研究する牛窪さん。物が売れない時代にJAや農業者が存在感を示していくには、マーケティングを“楽しむ力”が問われていると見ています。

若い人が信頼するのは自分の家族だけ。消費を伸ばすには、社会保障の充実が不可欠です。

経済に勢いのある時代を知らない若い世代

 20代男性の2割は、1か月間に1度もご飯(お米)を食べなかった――。2016年5月に農林水産省から、こんな調査結果が発表されました。20代の“草食系”“ゆとり世代”と言われる年代は、毎日がっつりはご飯を食べないだけでなく、お酒、家、自動車など全般的に、購買意欲そのものが低いという傾向が見られます。
 カレーや牛丼で、若い男性向けの定番商品といえば大盛りでした。ところが、近頃は大学食堂で小盛りを求める男子学生も珍しくないそうです。オフィス街を見渡せば細身のスーツばかり。細身のスーツが着たいから、太りたくないからご飯の量を抑え、おなかがすいたらチョコレートをコンビニで買ってきて、“ちょこっと”だけ食べて済ませてしまいます。
 日本では1970年代初めに、現在のコンビニと同様の運営形態を持つ店舗が現れました。1975年には24時間の営業が始まり、次第に全国に広がりました。
 学習塾から夜遅く帰った子どもが、独りで食事をする孤食化が進み、コンビニで食べたい量だけ、食べたいときに買ってくる――。幼少期からこんな生活環境が「当たり前」だったことが、彼らの気質形成の背景にあります。
 しかも現在の20代は、高度経済成長期やバブル経済期などの日本経済に勢いがあった時代を、物心ついてから経験していません。終身雇用制度は崩れ、社会保障制度のありようが揺れている中で、「誰も自分を守ってくれない、守ってくれるのは家族だけ」という思いが大変強くなっています。海外旅行に行かなくなったのも、節約よりは「テロが心配」という親に迷惑をかけたくないからです。また、かつては土日やアフター5、会社の上司に付き合うのは当たり前といえる習慣でしたが、そのようなことをする会社員はめっきり減りました。自分を守ってくれないのだから、付き合わなくなるのは当然の流れです。会社もそのような習慣自体を強要しなくなっています。
 大量生産・大量消費の構図のまま、物を作り続けても展望は開けません。「消費を伸ばすには社会保障の充実が不可欠だ」と、私はテレビ番組でのコメントやメディアのインタビューにも答えています。

“気に入ったもの”にビジネスチャンス

 でも、この世代に購買意欲が全くないわけではありません。例えば、社会貢献や環境保全のイメージが強い商品は、積極的に購入する傾向があります。また、家族や親しい友人に、自分が気に入ったものを贈るケースは年々増えています。
 特に、食に関するものを贈りたいという思いが非常に強いんですよね。「このお米はすごくおいしかったから、お母さんも食べて」「この前もらったケーキを私も贈り物に使おうかしら」「毎月欲しいんだけど、どこで手に入るのかしら」――といったやりとりが楽しめる分野で、ここにビジネスチャンスが生まれます。ニーズはどこかに必ずあります。ただ、“物が売れない時代”は、これまで以上にマーケティングが重要になっているのです。

ITとアナログでマーケティングを楽しむ

 マーケットインの発想とは、消費者の「もっとこういう製品があればいいのに」という声をつかんで、新たな商品を提案していくものです。マーケティングの要素には4つのPがあります。プロダクト(Product:生産)とプライス(Price:価格)、プレイス(Place:流通と販売チャネル)、プロモーション(Promotion:販促)であり、これらをトータルで考えるべき時代になっています。
 これまでは、消費者の声を、生産者が直接つかむことは困難でした。しかし、情報技術(IT)の発達により、声を簡単に集められるだけでなく、生産者と消費者の双方で情報を、簡単かつ瞬時にやりとりする方法が開発されつつあります。2017年はあらゆるモノの情報がインターネットにつながるIoT(InternetofThings)元年と言われており、このような動きはさらに加速し、あらゆる分野に拡大していきます。
 農業でも同様です。例えば、野菜の包装に付いているQRコードをスマートフォンで読み込むと、瞬時に生産者の情報が流れ、逆に消費者が感想を伝えることもできます。「この前買ったトマトすごくおいしかった」「有機栽培のレタスに虫が付いていたけど大丈夫ですか」なんて感じです。
 ただ、ITに頼らずとも、スーパーの店頭やレストランに足を運び、自分の農産物がどういうふうに食べられているのか調べてみるのも有効です。それも難しければ、家族や職場の同僚に最近はやっているもの、人気のあるものを聞くだけでも、消費の動向、消費者に受け入れてもらえる商品作りのアイデアを手に入れることができます。
 マーケティングでは、仮説を立てて、その通りにいった部分と外れた部分を検証して修正していきますが、この過程は結構楽しいものです。JAをはじめとする農業関係者の皆さんも、IoTに代表される情報技術と、身近な人を観察し、聞き取るアナログの手法を駆使してください。集まった情報を基にマーケティングを楽しめるかどうかが、選ばれる組織になれるかどうかを左右するでしょう。

農業分野でも、IoTにより消費者の情報を瞬時に集められる時代は目の前まで来ています。

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