収益性だけで価値を測れない分野はたくさんあります。本当に大切なものを訴えていきます。

成果主義が教育現場にはびこる弊害

 日本の教育に目を向けると、国の方針のもと、「ゆとり」から、再び「詰め込み」型の教育に戻されています。授業時間を増やし、何にでも数値目標を設定する成果主義が導入され、教員も子どもも余裕がなくなっている。農業体験のように成果が数値で見えにくい活動は評価されづらいので、教員が取り組みたいと思っていても周囲の理解や協力がないと難しいんです。無理やり実施すれば、保護者からも「うちのクラスは、なぜ農業体験ばかりさせるのか」と、たちまちクレームが来ますから。
 また、裕福な家庭の子どもが塾に通ったり充実した教育を受けている一方で、貧困家庭の子どもは進学もままならないなど経済格差による学力格差も深刻。貧困の連鎖が生まれています。こうした事態を極めて憂慮しています。

次世代に残すべき農業の在り方とは

 さまざまな機能を持つ農業ですが、日欧経済連携協定(EPA)などの国際交渉が争点に上がっています。ある農家の方にお話を聞いたのですが、輸入急増の影響で特定の品目が栽培されなくなった場合に輪作体系が崩れ、地域農業の仕組みそのものが壊れていくことを危惧していると。そのような問題点が、消費者になかなか伝わらないことにも歯がゆい思いを抱いているとのことでした。私も、国際交渉における農業問題は、輸入の増大で国産品の価格が下がる、国産の需要が奪われるといった問題点以外に、消費者が知らない課題や困難がたくさんあることを初めて知りました。
 地域で営まれている多様な農業が失われれば、子どもたちが多様な文化を学ぶ機会もなくなる恐れがあります。これは非常に問題です。
 日本の農業がグローバル化の波の中でも、耐えていけるようなシステムや支援が必要です。ただ、日本の農業は古くから自然と共存する形で営まれてきたものであり、収益性を高めて所得さえ上げれば、それで全ての問題が解決される、ということではないと思います。農業に限らず、成果がすぐに表れなくても長期的な展望を持って税金を投入すべき分野は、たくさんあります。どこまで税金を使うべきか、何を重点政策とすべきかといった見極めについて、もっと国民的な議論をして、ひとりひとりが見識を深める必要があるでしょう。そうした議論をすくい上げ、政治に反映するようなシステムも必要ですね。
 前述したように、教育現場でも、全国学力テストの得点アップや英検の合格者を増やすなど、手っ取り早く成果を上げようとする風潮が強くなっています。こうした状況を少しずつでも変えていくために、私も警鐘を鳴らして、本当に大切なものは何か訴え続けていかなければいけないと思っているんです。JAの皆さんも、次世代に残すべき農業の在り方について積極的に情報発信してほしい。ぜひ頑張ってもらいたいですね。

おぎ・なおき

1947年滋賀県生まれ。私立海城高校、東京都公立中学校教師として22年間、創造的な教育実践を展開、その後大学教員に転身。2012年4月から法政大学教職課程センター長・教授。臨床教育研究所「虹」を主宰し、現場に密着した調査・研究に精力的に取り組んでいる。情報・バラエティー・教養番組に多数出演し、「尾木ママ」の愛称で親しまれている。著書多数。最新刊は『取り残される日本の教育』。

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