私のオピニオン
津田大介

Daisuke Tsuda
ジャーナリスト

新聞からウェブサイトまで幅広いメディアで活動するジャーナリストの津田大介さん。インターネットとSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)による新しい情報発信の特徴を理解した上で、JAは地域で頑張る“意欲ある若い農家”の姿を社会に伝えるべきと提言しています。

物事を言い切る言論がまん延していますが、JAは断定調で語ることのできない多様な組織です。

断定調の言論が力を持つネットの時代

 私はインターネットユーザー協会の代表理事を務め、情報通信政策について提言を行っています。同協会は知的財産の視点から、環太平洋連携協定(TPP)問題についての調査を進めていました。しかし、秘密交渉のため情報が出てこないのです。そんなとき、日本農業新聞をはじめJAグループが発信する情報は分野が異なりますが、とても役に立ちました。また、3年前から沖縄の基地問題について取材しています。沖縄県の2紙をデジタル版で購読していますが、防衛関連の情報が全国紙よりも詳しく載っています。沖縄の新聞を読むことで、基地問題の背後にある日本の安全保障の全体像が見えてきます。特定の問題意識を持って取材している媒体の情報は貴重です。物事を偏りなく把握するためには、主体的に専門性のあるメディアを選択することが必要な時代になっています。
 FacebookやTwitterなどSNSを通じて、自分の価値観に近い知りたい情報がリアルタイムで得られるようになりました。Googleなど検索エンジンもパーソナライズ(個々人に最適化)されています。しかし、情報入手の経路が狭まることで、自分の意見と異なるが参考になる情報が入りにくくなるなど、情報が偏り、多様性が失われつつあります。
 昨年のアメリカ大統領選挙は、「人は見たいものしか見ない」という現象が可視化された出来事でした。記者会見でトランプ大統領は、信じたい情報だけを受け入れ、主張と合致しない質問をフェイク(虚偽)ニュースと切り捨て、事実を突き付けられても、オルタナティブ・ファクト(代替的事実)があると聞き入れません。イギリスやアメリカのメディアは、客観的な事実や真実が重視されない「ポスト真実(POST-TRUTH)」の時代の到来と指摘しています。
 インターネットでは、主語を明確にして物事を言い切る分かりやすい言論が力を持っています。地域のコミュニティーを取材する過程で、農業の現場を訪ね、JAの職員さんと交流することがあります。政府の規制改革を受けて、JAを批判する報道がありますが、JAは、それぞれ独立しており、「JAはこうだ」と一緒くたに語ることはできない組織だと思います。先進的な取り組みを進めているJAもあれば、旧態依然のところもあります。個々のJAの取り組みごとに評価しないといけない。例えば、東日本大震災では、JAが真っ先に放射性物質検査を行うなど、「苦しいときにJAがいてくれて本当によかった」という声を被災地の農家から聞きました。しかし、メディアは、「JAが農家の行動を妨げている」という言い切り型の分かりやすいストーリーを求めがちです。

“紹介者”が情報の信頼性を高める

 情報の発信者に求められるのは、情報を届ける方法の工夫です。若者がテレビを見なくなったこともあり、情報を世の中に広く浸透させるためには、あらゆるメディアでの露出が必要です。新聞やテレビといった既存のマスメディアだけでなく、インターネットやSNSなどで効果的に情報発信できる仕組みを用意しておくべきです。
 アメリカのアメリカン・プレス・インスティテュート、AP通信、シカゴ大学全国世論調査センターの共同調査によると、ネットニュースの信頼度を決めるのは、「どこのメディアが発信したか」よりも、そのニュースが「誰によってシェア(共有)されているか」であることが示されました。誰を経由して情報を届けるかが問題で、情報の発信者よりも“紹介者”の方が情報の重み付けを決めているのです。発信力のある人を組織内で養成するか、社会的影響力の高い“インフルエンサー”にアプローチして情報を広めてもらうことが、インターネット時代の情報発信力を高めるカギとなります。
 20年前までは、社会に広くアピールするには、メディアにプレスリリースを配布し、記者の取材を待つのが普通でした。しかし、今は、インターネットやSNSを活用して、情報を拡散させることができます。話題になれば、メディアが後追いします。ネットは、埋もれている情報を世の中に知らしめる機能を持っています。コストも安いので、実験的なことを積極的に行ってみてはどうでしょうか。伝えたい側が主体的に仕掛けていける時代になったといえます。

ネットやSNSを活用することで、伝えたい人が主体的に情報発信を行える時代になりました。

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