都会人の心のよりどころとなる第2、第3の「故郷ふるさと」で地域活性化を模索すべきです。

普段の農家の生活が商品価値を持つ時代

 10年ぐらい前から地域観光プロデューサーや地域おこし協力隊などが情報発信し始めたことで、知られざる(隠れた)地域の特産物が見いだされ、都会の消費者が観光と結びつけて、産地を訪ねる動きが見られるようになりました。生産者も優れた農林水産物を全て都会に出荷するのではなく「自分たちのところに来れば、おいしいものがあるよ」と呼びかけたことで、地域の特産物は都会に取り寄せるのではなく、本場の産地で味わう、購入するという価値観が醸成されるようになりました。都会の消費者が地方の農産物や食品に注目することは、「地方創生」という点からも期待したい動きです。
 旅行の価値観も変わってきています。高級な旅館やホテルに泊まることだけが旅の楽しみ方ではありません。不便かもしれませんが、一昔前の生活や、普段の農家の生活を体験できるツアーが今後、流行するのではないかと考えています。インバウンド(訪日外国人旅行)でも、農村の暮らしに密着し、農業体験もできる「農家民泊」が注目されており、農家の人たちが日常的に食べているものが立派な商品(価値)となるのです。
 食をキーワードにして、都会から地方に出かける動きは、これから、ますます盛んになるでしょう。一過性でなく、継続して人を呼び込むためのポイントは、万人受けする企画をしないこと。他がやっているからと模倣するのではなく、「自分たちならでは」のオリジナルを追求することが大事です。そのためには、地域と向き合い、周囲を巻き込み、台風の目になっていくことです。単独での事業は、瞬間風速的なパワーはあっても長続きしません。横展開(連携)することが成功の鍵を握っています。
 私は毎年、田植えや稲刈りで日本全国各地を訪れることを心がけています。「日本で最も美しい村連合」のひとつである静岡県賀茂郡松崎町では、駿河湾越しに富士山を望む絶景の「石部の棚田」で稲刈りを行いました。その夜、生産者の皆さんと交流し、町の歴史や魅力を聞き、「また、この町を訪ねて、あの人たちに会いたい」という心境になりました。人は生まれ育った地域だけでなく、「また、行きたい」と思える第2、第3の「故ふる郷さと」があれば、気持ちにゆとりというか、心のよりどころが生まれると思います。地方の方には、そんな都会人の思いを受け止め、地域活性化につなげてもらいたいです。

JAは原点回帰すれば、さらに強い組織に

 JA改革などのニュースを見聞きすることがあります。世の中で話題になることは、期待の裏返しです。生産者も多様化しており、組織全体として、きめ細かく対応し、向き合うことが大切です。優れたリーダーシップによって地域を巻き込んで大型直売所の経営に成功しているJAを視察したことがあります。次世代に向けて、JAは原点回帰すれば、潜在能力を発揮し、さらに強い組織になることができます。社会の動きに敏感に反応し、組織内で情報共有し、スピード感を持って対応することがこれからは大事だと考えます。

たなか・けいいち

1968年、神奈川県生まれ。1991年4月、大手旅行代理店入社。2014年2月、農林水産省委託事業フード・アクション・ニッポン推進本部事務局長に就任。2016年4月、同省委託事業「日本の食消費拡大国民運動推進事業」受託・推進。2016年、同省委託事業「食文化発信による海外需要フロンティア開拓加速化事業」受託・推進。同省「環境保全型農業推進コンクール」審査委員会委員も務める。日本科学技術ジャーナリスト会議会員、観光地域づくりプロデューサー、ニッポン全国鍋グランプリ国産食材プロデューサー。

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