私のオピニオン
国谷裕子

Hiroko Kuniya
キャスター

キャスターとして国内外の問題を追究し、国連食糧農業機関(FAO)の親善大使として活動する国谷裕子さん。地方の取材を通じて、地域を未来に引き継ぐためには、持続可能な開発目標(SDGs)の視点から現状分析し、地域の課題を「自分ごと」として捉え、行動することが大事だと語ります。

世界の問題は相互に深くつながっており、
個別でなく、統合的に解決策を示すことが必要です。

世界の問題を「自分ごと」として捉えて

 今年5月、国連食糧農業機関(FAO)の親善大使に就任しました。FAOは世界中の農業、食糧、環境に関するデータを集めて、幅広く分析を行っています。この統計データの中から日本の皆さんに必要な情報を伝える橋渡しの役割を担っています。
 例えば、食料自給率38%の日本は、62%の食料を海外から輸入しながら、まだ食べられる食料を年間約632万t廃棄しています(食品ロス)。それは、世界の食料援助量320万tの約2倍に当たります。また、食料を生産するには大量の水が必要です。今、世界で干ばつや塩害に苦しんでいる人が多数いる中、日本は、食料を輸入することで、大量の世界の水を消費しているのです。私たちは、生産国の水や土壌の問題に影響を及ぼしながら、その食料を大量に捨てるという大きな矛盾を抱えているのです。
 今、お話をしたような知られざる「真実」への関心が高まり、一見、私たちの生活とは関係ないと思われている世界の出来事であっても、実は身近な問題なのだという認識が広がってほしいと思っています。
 読者の皆さんは、「持続可能な開発目標(SDGs)」をご存じでしょうか。2015年9月の国連総会で採択され、日本政府も2016年12月、実施指針を出しました。メディアにほとんど取り上げられなかったこともあり、残念ですが、日本での認知度は決して高くありません。しかし、SDGsが国連全ての加盟国(193か国)によって採択された背景を理解することが必要です。
 SDGsは、途上国の貧困や教育レベルの改善を目的とした2015年までの「ミレニアム開発目標(MDGs)」を土台として、経済格差の拡大や環境の悪化など、先進国が自ら取り組まなければならない17の目標です。環境、経済、社会問題などで、先進国と途上国は相互に関連し、底流で深くつながっており、問題を個別に対処するのではなく、世界を俯瞰ふかんして、統合的に解決策を示す必要があります。大事なことは、“問題の相互関連性”の構図を把握することです。
 アフリカや中東では、温暖化などによる土壌劣化や水不足によって生活の糧である農地を奪われた人々が都市に流入し、スラムや貧困が深刻化しています。テロ集団は不満を持った若者たちを勧誘し、組織が拡大化する要因になっています。途上国の環境問題は、もはや先進国と無縁ではありません。問題が統合して解決されない限り、各国に「不安定化」がもたらされるのです。
「地球環境の限界が近づいている」という強い危機感が、世界中で共有され始めています。大量の資源を用いた生産、消費、廃棄を行うこれまでの資本主義のあり方では、地球にかかる負荷が大きすぎて、このままでは、私たち人類は未来に存在することができなくなる「不都合な真実」と向き合うことが、SDGsの原点です。
 私たちは、どうしても、目の前、今の利益を優先しがちなのですが、「まなざし」を未来に向けることが大切です。ビジネスの基本は「売り手良し、買い手良し、世間良し」の三方良しですが、私は「将来良し、地球良し」を付け加えたいのです。まずは、SDGsの目標達成期限である2030年までの長い時間軸で横断的に物事を捉えることが求められています。
 日本では、SDGsは遠い国の問題であるという意識が強いですが、ゲリラ豪雨や巨大台風が発生するなど、私たちの身近にも気候変動による被害が生じ、もはや見過ごすことができません。SDGsに対して「途上国に何かしてあげる」という姿勢でなく、私たちひとりひとりが「自分ごと」として、取り組まなければなりません。世界の問題を「自分ごと」として考えることが、SDGsを推進していく上で、最も大きな課題となっています。

SDGsの視点で地域の現状を分析

 NHKの『クローズアップ現代』で、ある自治体が事業のアウトソーシングを始めたところ、雇用の不安定化、賃金水準の低下を招いたという事例を紹介しました。競争入札により、最安値で受託する業者が選ばれたことは、財政支出が削減され、無駄を省けたと、その時点では、最善の政策に思われましたが、地域の持続可能性(サステナビリティー)の視点で考えると、地域の疲弊の引き金になっていたのです。先日、島根県の海士あま町を訪ねました。この小さな町は、独自の取り組みで人口減少を食い止めたことで知られています。まずは、教育を軸にした地域の持続可能性に取り組みました。島唯一の高校では、生徒たちが島内外で地域(ローカル)の課題を発見し、解決できる力を身に付ける授業を取り入れました。地域で身に付けた思考力や実践力によって、世界(グローバル)の課題にも向き合える「グローカル人材」を育てました。教育の魅力を向上させたことで、統廃合の危機にあった高校は県外からの「留学生」も加わり、2017年度の入学者は64人と2008年度(28人)の2.3倍になりました。
 また、ダイバーシティー(人材の多様性)を大切にして、IターンやUターンなど、島外の人々を積極的に呼び込みました。移住者の経験と知識をつなげることで、カキや隠岐牛などの1次産品をブランド化し、町の経済基盤を確立しました。外部の人材を積極的に受け入れた海士町は、SDGsの「パートナーシップで目標を達成しよう」(目標17)に該当します。持続可能性を高める地域づくりを展開するには、SDGsの視点から現状を分析することが大切です。海士町の成功事例は、地域の課題を解決するため、一生懸命に頑張っている全国の地域の方々の背中を押してくれるはずです。

SDGsは遠い国の問題ではありません。私たちが「自分ごと」として取り組むことが大切です。

※国谷裕子さんが啓発活動に取り組む「持続可能な開発目標(SDGs)」について、詳しくは「国際連合広報センター」のウェブサイトをご覧ください。 http://www.unic.or.jp/

ページトップへ