私のオピニオン
指出一正

Kazumasa Sashide
『月刊ソトコト』編集長

雑誌『月刊ソトコト』編集長を務める傍ら、精力的に地方を訪ねる指出一正さん。「ローカルヒーロー」と称する若者や、地域づくりの主役を担う魅力的な「新しい地方」が各地で誕生していると指摘します。

「社会や地域のために役に立ちたい」
新しい価値観「ソーシャル」が若者を地方に導きます。

地方で「居場所」を探す若者たち

 地域づくりをテーマにする雑誌『月刊ソトコト』の編集の傍ら、取材や講演などで毎週3~5つの地方を訪ねています。「魅力ある地域のつくり方」「これからの地方」について語ってみたいと思います。
 東京に代表される大都市で働く20代、30代半ばの若者たちの中には、たとえ、大企業に勤め、生活が安定していても、組織の歯車の一端として、「自分の仕事は、社会のために、誰かの役に立っているのか」と、行き場のない“モヤモヤ”とした気持ちを抱えており、手応えや役割を探している人も少なくありません。そんなとき、人口数百人、数十人規模の過疎が進む中山間地域と出会い、地域の困りごとを何とかしたいと頑張ることと、地元の人に喜んでもらえるというダイレクト感がモヤモヤを吹き飛ばし、自分の「居場所」があることに喜びを感じたのです。
 また、彼らが中山間地域で体験したことは、地域のコミュニティが希薄な時代にあって、おじいさんやおばあさんが、フルネームで自分の名前を覚え、話しかけてくれたことだったり、野菜のお裾分けなど、お金を介在させない物のやりとりだったり、非日常的な出来事でした。映画に出てきそうな田んぼや畑が広がる風景はまさにファンタジー。エキゾチックな地方の魅力を感じたのです。
 2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災という時代の大きな節目を経て、「社会のために何か役に立ちたい」という新しい価値観「ソーシャル」が若者の間で共有されるようになり、これまでの「豊かな社会」の尺度が瓦゙解がかいしています。好きな地域に「関わり」を持ち、そこで活躍して、幸せを見つけた若者たちのことを、私は「ローカルヒーロー」と呼んでいます。

地域の弱みや悩みが若者を引きつける

 新潟県の十日町市では、そんな若者と農業を柱にした地域づくりが進みました。その担い手は「パーリー建築」という20代の3人の男性グループ。全国各地で依頼のあった地域に住み込み、空き家を改修(リノベーション)し、イベントを行う建築家集団です。地元の若手農家グループ「ちゃーはん」とコラボレーションして、田んぼの真ん中にウッドデッキと黒板を設置した「田んぼの学校」(写真)を作り、農業体験やナイトウォークなどを実施し、SNSで「面白い人たちが何かやっている」と知った人を地域に呼び込んでいます。彼らが拠点としていた「ギルドハウス十日町」というシェアハウスは、子どもからお年寄りまで、訪れた人と地元の人が交流する場所にもなっています。
 私は「ひろしま里山ウェーブ拡大プロジェクト」の全体統括メンターを務めていました。広島県の事業で、楽しみながら「人が集まる波を起こしていこう」という趣旨のもと、首都圏の若者と広島県の中山間地域とのマッチングを図り、地域の課題解決につなげています。この事業の一環で、神石高原町へインターンシップに来ていた男子大学生が、名物のこんにゃくのおいしさに驚いて、東京・浅草で、こんにゃくを味わい、語らうイベントを開きました。中山間地域に魅力を感じた都会に住む若者の手によって、知られざる特産品のアピールができました。十日町、広島県の事例から分かることは、就農するまではいかないが、農業に興味がある、収穫される農産物が好きなど、観光や移住でもないかたちで地域に関わりを持つ「農村関係人口」を増やすのが大事だということです。
「地域を盛り上げたい」という「ローカルヒーロー」を呼び込むためには、「関わりしろ」を用意することです。地域に自分が関われる余白があるかどうかです。「他の地域に比べて、こんなに施設が充実している」と、わが町自慢をされても、あまり心に響かないのです。むしろ「空き家がたくさんあって困っている」「農家の後継ぎがいなくて耕作放棄地が広がっている」といった地域の弱みや住民の悩みを率直に披露して、弱音を吐いたほうが、“自分ごと”として「応援したい。支えになりたい」と興味を持ってもらえます。若い人は「自分の能力を発揮して、人の役に立ちたい」という意識を持っているので、自らが地域の困りごとに関わることで、少しでも事態が良い方向に向かえば、喜びや手応えを感じるのです。
 島根県が進めている「しまコトアカデミー」という施策があります。移住の義務はなく、島根のことを学びたい、島根に関わりたいという人を対象にした首都圏での講座で、私がメイン講師を務めています。5年間で約80人が卒業し、20人がUターン、Iターンしました。そのうちの9割は、地域課題の解決に取り組む社会起業型の仕事をしています。耕作放棄地を利用して金魚の養殖用の池を作って働く若い男性や、お年寄りのために音楽療法の社団法人を作った若い女性など、たくさんの「ローカルヒーロー」が生まれました。

移住でもなく、観光でもないかたちで地域に関わる「農村関係人口」を増やすことが大切です。

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