産地の成功例が“ニュース”にならないためにも、「理論先行」でなく現場での「深掘りの発想」を実践すべきです。

「食料自給率」を“効果的”に伝える

 私は取材を通じて、農業に携わる人たちの熱意に尊敬の念を感じていました。しかし、個々の農政には疑問を覚えることがありました。例えば「米の生産調整(減反)」です。耕作しないのに補助金を得られるのは、「生産的」ではない。納税者には理解されません。これまでのJAは、「現状維持」ばかりに注力し、時代のうねりに抵抗するだけで結果としては押し切られてしまった印象を受けます。「NO」だけでなく、時代を見据えたポジティブな提案(代替案)を示すべきと考え、JAに勤務する友人とも、よく議論したものです。
 JAは「食料自給率(カロリーベース)」の数値(38%)が低いことを問題にしていますが、国際政治を取材した経験からは“違和感”を覚えました。食料どころか飲料水さえ外国から輸入している国があります。また、1979年、ソ連のアフガニスタン侵攻に対する「経済制裁」として、アメリカのカーター政権は、対ソ穀物禁輸を行いましたが、他の輸出国が追随しなかったこともあり、“兵糧攻め”の効果を発揮しませんでした。逆に売り先を失ったアメリカ産穀物は余剰になって値崩れし、農業者団体の突き上げもあり、対ソ制裁はアメリカ国内からなし崩しになりました。「食料自給」は大事ですが、それだけを声高に強調しても「エネルギー自給率の方がはるかに低いがどうする」と反論されると、答に窮します。どちらも輸入元の国を複数化し、石油やLNG(液化天然ガス)などのエネルギー源の確保と合わせた「総合的な安全保障」を考えるべきです。「食料自給率」よりも食べ物を廃棄する「食材ロス」「食品ロス」の方が、日常の暮らしに身近で、肌身で実感できるテーマです。どちらが重要な問題かというのではなく「食品ロス」を脇に置いて、単独で「食料自給率の低さ」だけを訴えても、説得力はないということです。それでは、JAは、どのようにして、国民に「食料自給率」を提言すれば良いのでしょうか。例えば、「SDGs(国連の持続可能な開発目標)」の取り組みと絡めるなど、“組織エゴ”を感じさせない、分かりやすいアプローチが効果的だと思います。

生産現場に誘い込む「インセンティブ」

「大相撲の新弟子と新規専業就農者の人数が同じ」という話を学者から聞いたことがあります。一瞬、本当?
 と思ってしまったほど、担い手が参入していないのが日本農業の課題だと考えています。生産者の高齢化は容赦なく進みます。農業に関わりたい人と担い手難に悩む生産現場をつなぐのが、行政やJAの役割です。つまり、現場に誘い込む「インセンティブ(魅力)」が必要になります。広島では、県庁やJA、果実連が一体となって、平たんな耕作放棄地にレモンの苗木を植える「レモン団地」を整備しています。急勾配な坂を上らなくても栽培できるのが生産者にとってメリットです。私は、主産地の大崎上島町で“定点観測”してきました。かつて「輸入自由化」でいったん、苦境に陥りましたが、JAが中心となって減農薬など安全性や生産性にこだわり、真摯しんしに栽培に取り組んだことに加えて、レモン果汁をスイーツやもみじ饅頭まんじゅうとのコラボ、チューハイ・カクテルの原料にするなど、付加価値を高める販路開拓にも努めました。まだまだ広島レモンには需要の余地があり、後継者や新規就農者も増えています。広島のJAは「インセンティブ」を高めたのです。
 島根県隠岐の島の海あ士ま町が外部から若者を受け入れたことで、離島の過疎問題から脱却しつつあるという例が時々、メディアで取り上げられます。広島のレモン産地の成功も同じで、ニュースになるということは、極めて“まれ”な成功例であることを表しており、日本農業全体を見渡すと、決して楽観できる状況ではありません。逆説的ですが、各地の成功例が一般化し、ニュースにならないのが理想の姿です。

JAに望むこと

 最後にJAや行政に望みたいことがあります。持ち主不明の農地、後継者不在で未利用の農地、小規模農地などの集積に、ぜひリーダーシップを発揮していただきたいのです。農業の「現場」である農地と、意欲のある生産者、耕作希望者の橋渡しをしてほしいのです。

消費者に望むこと

 消費者にも望みたいことがあります。ブランド米、国産のサクランボ、イチゴ、各地での国産牛肉など、消費者も「よいものなら高くても買う」傾向が見られます。海外での和食ブームもあり、国産食材の輸出も増えています。「よいものには対価を払う」ことによって、消費者が生産者に刺激を与え、勇気づけることがぜひとも必要です。

みやま・ひであき

1946年富山県生まれ。早稲田大学を卒業後、読売新聞社に入社。千葉支局、政治部、ワシントン特派員、レーガン大統領との単独会見を実現。社長室秘書部長、政治部長などを経て、2011年6月、広島テレビ放送社長に就任。18年6月から最高顧問。著書に『世界最古の「日本国憲法」』『オバマへの手紙』『広島じゃけぇ、「中国」じゃないけぇ。』など多数。論壇誌などに寄稿多数。「オバマ広島訪問」実現のため海外向けの英文記事を多く発信。

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