私のオピニオン
髙田明

Akira Takata
ジャパネットたかた創業者、サッカーJリーグ V・ファーレン長崎代表取締役社長

一代で通販トップ企業を築いた髙田明さんは、経営の一線から退いてからは、サッカーを通じて、しなやかに平和の大切さを伝えています。あの“甲高い声”とは違った“低い声”で伝えることの大切さについて語っていただきました。

実家のカメラ店で経営の基本を学び、宴会撮影で「伝える」ことの大切さに気付きました。

“甲高い声”の裏側にある「伝える」大切さ

 読者の皆さんにとって、私の印象は故郷の長崎・平戸弁のアクセントが加わった“甲高い声” で話すテレビ通販番組での語り手(MC)ではないでしょうか。しかし、普段の私の“低い声” を聞くと、初対面の人に「全然違う」と驚かれます。テレビやラジオで話すときの声は、商品の魅力を伝えたいとのおもいからおのずと高くなっていたのです。実は、お客さまの心をつかむ「伝え方」は、600年前の室町時代の能役者の世阿弥の教えに通じるのです。「髙田明と世阿弥」。不思議な組み合わせですね。その謎をお話しする前に、私の半生を簡単に振り返ってみたいと思います。
 大学時代、英会話部だった私にとって、海外勤務も経験できた2年間の会社員時代は順風満帆でしたが、親友と翻訳会社の立ち上げを計画するも頓挫し、平戸に帰り、実家のカメラ店を手伝い始めたことが「人生の転機」になりました。もし、会社員を続けていたら、私の人生はどうなっていただろう。1974年、25歳でした。当時の私は、団体旅行の宴会を撮影していました。写りの良い写真を撮影するため、「こっちを向いて」と、相手の心をつかむ“声掛け” のタイミングを工夫しました。至極当然のことですが、お客さまが喜ぶ写真を撮らないと買ってもらえません。「伝える」ことの大切さは、宴会撮影で気付いたのです。
 父から支店や新店の経営を任され、商売の経験を積み、経営の基本を学びました。1986年、「のれん分け」のかたちで独立し、佐世保で「たかた」を設立しました。フィルムの現像とプリントに加えて、本格的にカメラやビデオカメラを販売するようになりました。これらの商品は、シニアの方にも分かりやすく説明しなければ売れません。お客さまの立場になって、商品の魅力を分かってもらえるよう「伝え方」を工夫しました。お子さんがいらっしゃるお客さまには、ビデオカメラで撮影したお子さんの映像をテレビに映し出すと、その瞬間、「テレビスター」に変わります。どんどん売れましたよ。「かわいい子どもや孫のために」と購入する人が多かったのです。

通販との出会い、常識を覆す

 信じていただけないかもしれませんが、もともと口下手なのです(笑)。そんな私が、1990年3月、42歳のとき、「ラジオ番組でカメラを売ってみませんか?」と誘われ、地元のNBC長崎放送の通販番組に出演しました。1万9,800円するカメラを紹介したところ、わずか5分の放送で佐世保の店舗1年分に当たる50台が売れたのには驚きました。「ラジオの力はすごかね」とうなりました。実物が見えないラジオ通販では1万円以上の高額商品は売れないというのが当時の常識だったのですが、そんなことは知らなかったですし、商品が目に見えなくても分かりやすく伝えれば、モノは売れると感じました。
 年に2回から月2回へ、そして2年ほどで長崎県内では毎週、私の声がラジオから流れるようになりました。「メーカーの商品なのに、自分が作ったかのようにしゃべっていて面白い」と言っていただけるようになり、その後、日本中に届くようになりました。大きな手応えを感じた私は、テレビ通販に挑戦し、自前のスタジオを作り、MCなどのスタッフを育成し、通販会社「ジャパネットたかた」が誕生したのです。その時々で目の前にあった課題に真剣に取り組み、階段を一段、一段上がっていったら、気付けば多くのお客さまにご利用いただける会社になっていました。ただそれだけのことです。

「間」は次の“有”を生み出す“無”

「伝えること」で意識しているのは、話し言葉の間に、「」を置くことです。商売では、売り手の言い分だけを連呼していても、お客さまの心に届くことはなく、絶対に売れません。1秒でも0.5秒でも考える時間が必要です。「間」は次の“有” を生み出すための“無”なのです。テレビやラジオの向こう側にいるお客さまの姿を思い浮かべながら、話すスピードやテンポ、声のトーン、どこでどれくらい間を置けば、相手の心が解きほぐれるのか、研究しました。商売だけにとどまりません。社会のあらゆるコミュニケーションで「間」は必要です。夫婦、親子、恋人、職場での上司と部下など、「相手」と真剣に向き合い、反応を見ながら「間」をうまく取ることが、人間関係の基本だと思います。
 還暦を過ぎたころ、社員から「社長がいつも話していることが書いてあります」と世阿弥の本を贈ってもらいました。読んでみると、私が長年、通販の世界で尽力してきた「伝えること」と共鳴しました。「間」の取り方は、『花鏡』にある「一調・二機・三声」につながります。舞台で声を発する際、心と体の中で音程を整え(一調)、タイミングを計り(二機)、目を閉じ息をためてから声を出す(三声)とよい、という意味で、いきなり話し出すのではなく、周囲の環境を把握してタイミングを踏まえ、初めて声を出しなさいという教えです。通販番組は、見えない言葉のキャッチボールです。お客さまの関心のある商品をいかにタイミングよく提案できるか。見聞きする人が、何を感じているのかを想像しながら声を発することで、心にメッセージを伝えることができると思っています。

「伝え方」一つで、埋もれていた特産物が輝き、生産者の人知れぬ努力が報われるのです。

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