私のオピニオン
太田景子

Keiko Ota
気象予報士

テレビ朝日系『サンデーLIVE!!』で天気予報を担当している太田景子さん。地球温暖化による「極端気象」の常態化の時代に入ったことを認識すべきと警鐘を鳴らします。気象予報士の使命は「生命と財産を守ること」を胸に刻み、視聴者に寄り添いながら、親しみやすい気象情報を届けることに努めています。

もはや異常気象でなく、地球温暖化による「極端気象」の常態化の時代に突入したと認識を持つべきです。

両親が天気を先読みできる「謎」を知りたくて

 大井川の上流にある静岡県川根本町で生まれ、育ちました。良質のお茶が収穫できる県内有数の産地で、実家は600m²ほどの小さな畑ですが、お茶を栽培しています。一番茶の収穫時期を迎えるGW(大型連休)になると、家族総出で茶摘みをします。都合のつく年は私も帰省して、作業を手伝います。お茶所なので、一斉に町中で茶摘みが行われ、茶工場は、朝から晩までフル稼働で作業します。町の至る所が新茶の香りで満たされ、活気を感じることができます。一番茶の収穫の時期は、私が最も好きな故郷の季節です。
 気象予報士を目指した原点は、子どもの頃の気象体験にあります。お茶を栽培する上で最も注意が欠かせないのは降霜対策です。霜は「静かな災害」と言われるほど、農業にとって用心が必要な自然現象です。冬から春先にかけて、冷え込む夜は、防霜ファンが回り出し、一晩中、低い機械音が町に響き渡ります。すると両親から「今夜は冷えるから毛布を1枚多く掛けなさい」と注意されました。このことは、日中温められた空気が上空に放出され、地表に冷たい空気がたまる放射冷却現象が影響して、霜が降りるのですが、両親の忠告通りで、朝になると、寒さで目覚めることに驚いたものです。地域特有の自然現象から天気を判断することを「観天望気」と言いますが、両親が天気を先読みできることが不思議でした。その謎を知りたくて、自然科学に興味を抱くようになりました。気象原理が分かることが楽しくて、気象予報士という資格に出会ってからは毎日解析に夢中になりました。子どもの頃の体験を思い出すたびに、気象予報士という職業を選んだのは私の宿命であると感じ、もっともっと精進したいというおもいになります。

信頼できる気象情報の羅針盤がない

 2018年を象徴する漢字に「災」が選ばれましたが、多くの方にとって、昨年は自然災害が一番印象に残った年になりました。気象の世界では、平成最悪の激甚化の1年でした。7月の西日本豪雨、埼玉県熊谷市で41.1℃を記録するなど夏場の異常な猛暑、史上初の5日連続の台風発生、台風21号による近畿地方の記録的な暴風・高潮……など、一つ一つの気象現象が“極端”で前例がなく、被害の映像は現実味のない映画のようでした。復興が間に合わないうちに予測し得ない事態が相次ぎ、日本列島はボロボロに傷つきました。自然の猛威の前には、なすすべのない人間の力の小ささを思い知らされました。
 私は昨年の朝日地球会議で2018年を「気象の極端化元年」と位置付けた発表をしました。極端化は以前から言われていますが、あえて今年を「元年」とした背景には、気象庁をはじめ世界の専門機関がスーパーコンピューターによるシミュレーションを重ねた研究成果などから、2018年に起きた極端な気象現象は、地球温暖化に起因するとした報告がいくつも見られたからです。これまで温暖化の関与を断定することは難しく、専門機関がこれほど関係性を明確に示したことは私が知る限り前例がありませんでした。
 気温が1℃上昇すると空気中の水蒸気量は7%増えるといわれていますが、西日本豪雨でこれまで経験したことのない雨量を記録したことは地球温暖化が少なからず作用したといわれています。さらに2018年夏の記録的猛暑についても、気象庁気象研究所などの研究により、温暖化の確実な影響が証明されました。
 天気は国境がなく世界中とつながっています。「テレコネクション」と呼ばれ、遠く離れた地域の気象現象が相関するのです。大気や海流は循環しており、地球上のどこかで熱波が起これば、どこかで寒波が起きて、どこかで豪雨になれば、どこかで干ばつが発生するなど、全体でバランスを取ろうとするのですが、時として、その振れ幅が極端になってしまうことがあります。地球温暖化は、産業革命以降、二酸化炭素排出量が大幅に増えた人為起源による原因が指摘されています。もはや「異常気象」でなく「極端気象」の常態化という認識を持つべき時代となっています。昨年12月、地球温暖化について話し合う国連会議「COP24」でパリ協定が採択されましたが、温暖化による自然災害の恐怖を体験し、どこの国よりも傷を負った私たちだからこそ、気候変動と向き合う世界の先頭に立って、脱炭素に向けた再生可能エネルギーの選択や、常態化する極端気象に“適応” するよう意識を変えていくべきです。
 読者の皆さまは身をもって実感されているでしょうが、農業は気候変動の影響を最も受ける産業です。地球温暖化で産地が北上化しており、品種改良や栽培管理の適切化などの取り組みが行われるなど、食料の安定供給に向けた、生産現場での懸命な努力に頭が下がる思いをしています。

プッシュ型の情報プラットフォームを

 自然災害を前にして、残念ながら、テレビの天気予報では今のところ農家向けの詳細な気象情報に特化するのは難しいのですが、2018年の「極端気象」による農業被害が甚大であったことを受けて、気象情報の農業利用については、農研機構をはじめ気象庁や各自治体などが連携し温暖化による気候変動に適応するためのシステムが次々と構築されています。高温により予測が難しくなってきている、発芽のタイミングや深水管理など中長期的な農業計画における気象データの活用には「メッシュ農業気候データシステム」。近年多発しているゲリラ雷雨やヒョウ、突風など短期で局所的な気象現象には「ふるリポ!」などがあります。そして「農業データ連携基盤(WAGRI)」も今年3月から本格稼働する予定です。
 このように農業気象の分野は日進月歩で進化していますが、生産現場からは、web上に散在する農業気象データの体系化を求める声もあり、有効に活用されていないジレンマも感じます。スマートフォンなどのデジタルメディアになじみがないご高齢の農家さんは、テレビの天気予報以外、能動的に情報を取りにいく手段のガイドがほとんどなく、携帯電話を使いこなせる世代であっても、畑やハウスで作業に夢中になっていると、数時間後に迫るシビア現象(局地的な大雨、大雪、ヒョウ、突風、雷など)の通知メールに気付けないことも多いと聞きます。正確な気象予測が何よりも大切な農家さんに限って、常に「情報弱者」であるという厳しい現実を認識しました。非常時、何を参考に行動すべきか。信頼できる気象情報の羅針盤がないのです。
 岡山の農家さんにお話を伺うと、8月23日に西日本を直撃した台風20号、9月4日の21号では、刻々と風雨が強まる中、ビニールハウスやマルチの補強が必要なのか、畑に溝を掘り排水をすべきか……。テレビの天気予報から起こりうるリスクを想像して、判断、行動するしかなく、情報に振り回されてしまったそうです。
 自治体やJAなど地域の拠点に防災情報を集約・共有するシステムをつくり、気象予報士など専門家の助言を得て、荒天時の対応を相談できたり、災害に対処できる分かりやすい情報を“届ける” プッシュ型のプラットフォームを構築する必要があります。

自然災害が起こると農家は「情報弱者」に陥ります。情報を“届ける”プラットフォームの構築が必要です。

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