私のオピニオン
村井満

Mitsuru Murai
公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)チェアマン

民間企業のビジネスパーソンからJリーグのチェアマンに就任した村井満さん。サッカーの世界に閉じこもることなく、地域の人たちにJリーグの影響力を使ってもらって、社会課題を解決する「シャレン!(社会連携活動)」に取り組んでいます。JAは「地域密着」の先輩で、Jリーグと連携することで日本農業にプラスの効果をもたらすと指摘されています。

サッカーに興味のない人も含めて、地域の人たちとJリーグを「使って」社会課題の解決を目指します。

Jリーグで地域の課題を解決する

 1993年(平成5年)5 月、10クラブで開幕したJリーグは現在、北海道から沖縄まで39都道府県に55クラブが加盟しています。まだ全ての都道府県ではありませんが、プロスポーツが身近にある環境をつくりました。創設当初から掲げてきたのが「地域密着」です。クラブは活動の拠点となるホームタウンを特定し、親会社の名前でなく地域名を名乗り、サッカーに限らずいろんなスポーツを通じて地域が豊かになる地域貢献を行うことをJリーグ規約で義務付けました。選手や関係者が参加するホームタウン活動は2018年の実績で、リーグ全体で年間2 万回を超え、1つのクラブが年間約390回も地域に出向いたことになります。幼稚園や小学校のサッカー教室、病院や介護・福祉施設の訪問など、26年間、地域に元気を与える活動を懸命に続けてきたことで、クラブは地域に受け入れられました。地域貢献の活動は、どの競技団体にもないJリーグの特徴であり、「豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与」というJリーグの理念を体現しているのです。
 25周年の節目を迎えた昨年、どのようにして次の25年間の「地域密着」を発展させるのか模索しました。これ以上、活動回数を増やすには限界があります。たどり着いたのが「Jリーグを使う」というコンセプトでした。これまでは「Jリーグが地域に貢献する」といったJリーグが「主語」だったのですが、少し肩の力を抜いて「地域の人たちがJリーグを使ったら何ができるのか」と、地域の人たちが「主体」となり、Jリーグが「手段」になる“発想の転換” を行いました。
 昨年5月、まちづくり・健康・教育など、あらゆる分野で活躍する約300名を招いて「Jリーグを使って何ができるか」をテーマにしたワークショップを開催しました。4時間以上にわたって熱い話し合いが行われ、斬新なアイデアが幾つも創出されました。それらを集約して地域を良くしたいと活動している皆さんと一緒になって、クラブの資源を使って地域の課題を解決するプロジェクト「社会連携活動」をスタートさせました。活動に親近感を持ってもらうため「シャレン!」と名付け、サッカーに興味のない人も含めて幅広い層の人たちと持続可能な地域の未来を共に創ることを目指しています。

自己満足に終わらない地域貢献

「Jリーグを使う」ことを考えるようになったきっかけは、一昨年おととし、Jリーグの黎明れいめい期を支えたジーコさんが、母国ブラジルで生活に困窮する人たちを支援するために開いているチャリティーマッチを視察したことでした。趣旨に賛同した人が、困窮家庭で不足しがちな食料品をはじめ、医薬品、衣料品をスタジアムに持ち寄る運動です。ジーコさんは自らの影響力を生かして、社会を良くしたい人たちをつなぐハブ(核)の役割を果たしていました。共通の目標に向かって仲間と連携して取り組む「共創」の関係に感心し、そのとき気付いたのです。Jリーグはホームタウン活動をやってきたけれど、クラブが主体となっている限りサッカーと縁がない人に知られることなく自己満足に終わってしまうのではないか、と。ホームタウンには地域の課題を解決しようと努力している人がたくさんいます。ジーコさんのように同じ志の人たちと連携して、Jリーグの影響力を使ってもらえば、地域が求める課題に対応し社会貢献活動の価値が高まると考えました。
 ジーコさんの活動を通じてスポーツには「する」「見る」「支える」に加えて、社会のために「使う」という第4の価値があることに気付きました。サッカーは手でなく足を使うのでパスミス、シュートミス、ときにはオウンゴールなど失敗が起こりやすい競技です。「シャレン!」は始まったばかりです。たとえ失敗したとしても、臆することなく果敢に挑戦した結果ならば構わないと、当事者に再起を促す心構えでプロジェクトを進めていきます。

「シャレン!」で地域を共に創り上げる

 JAは地域密着の組織で、理念のために活動する点においてJリーグの先輩です。JAとクラブの連携は、地域に豊かさや魅力を創り出し、農業にプラスの効果を生み出します。例えば、後継者不足ではクラブが地域ににぎわいをもたらせば、地元に戻りたいと考える若者もいるでしょう。皆さんの地域が抱える課題は何でしょうか。その解決に「Jリーグを使う」ことを検討してみてください。サッカーは世界に通用するコンテンツでJリーグはアジアへのプロモーションを重視しています。サッカーを通じて豊かな食の魅力を発信することで、農産物の輸出振興や外国人観光客を誘致する取り組みを共に考えていきたい、全てのJクラブと地域のJAの皆さんと一緒に活動できたらいいですね。私たちのホームタウン活動の中から、知っていただきたい3つの取り組みを紹介します。
 関係者の努力もあり、コンサドーレ札幌はJAグループ北海道と10年以上の時間をかけて、深いきずなを築かせてもらっています。選手とサポーターが一緒になって農作業を体験できる農園(コンサ・ド・ファーム)は象徴的な存在です。また、北海道教育大学、北海道教育委員会を加えて4者で相互協力協定を結び、将来を担う子どもの成長を支援する活動に取り組んでいます。北海道は子どもの貧困率が都道府県別でワーストの上位に入ると指摘されるなど、子どもを守ることは切実な社会課題になっています。4者は子ども食堂の運営や読書を推進する団体に絵本を寄贈するなど、子どもの生活基盤、居場所づくりを支援しています。コンサドーレはサッカーを通じた仲間づくりや、本を購入するためのベルマーク集めを担いました。コンサドーレが加わることで注目が高まり、敷居が低くなることで住民が参加しやすくなります。それぞれの得意なことを持ち寄り地域を共に創り上げる「共創モデル」で、まさに「シャレン!」のお手本です。
 地元のブランド米の名称がユニホームにプリントされているモンテディオ山形は、地元の農家グループと連携して、過疎化による耕作放棄が懸念されている山辺町の棚田の保全に取り組んでいます。選手が子どもと一緒に田植えと稲刈りを行うことで、地域にサポーターを呼び込み、にぎわいをもたらしています。収穫したお米は「モンテ棚田米」としてスタジアムで販売されます。選手にとって農作業は地域活動を兼ねながら、体幹(脊柱起立筋)を鍛えるトレーニングにもなり、子どもには農業や自然科学を学べる世代交流の場にもなっています。今年で9年目を迎え、クラブにとって地域との絆を築く意義深い活動になっています。
 ガイナーレ鳥取は、2017年から砂地の休耕農地を利用して芝生(西洋芝)の栽培を始めました。実は平坦な砂地は芝生の養生に最適な土地なのです。クラブはスタジアムでの芝生の管理ノウハウを有しており、地元のJA鳥取西部が栽培を助ける“サポーター” になったことで、農薬や化学肥料を使わない安全な芝生を生産することができました。県内の幼稚園や小学校の校庭に提供したところ好評で全国販売の計画もあります。クラブとJAがコラボレーションしたことで、耕作放棄地という地域のデメリットを一気にメリットに転換させた画期的な「共創モデル」です。

JAは「地域密着」で、理念のため活動する組織の先輩。
一緒に活動することで、持続可能な地域を共に創り上げます。

Jリーグの社会連携活動「シャレン!」については、特設サイト「Jリーグをつかおう!」で活動事例などを紹介しています。https://www.jleague.jp/sharen

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