私のオピニオン
北岡伸一

Shinichi Kitaoka
国際協力機構(JICA)理事長

世界各国で国際協力に取り組んできたJICA理事長の北岡伸一さんが、これまで訪れたのは108か国に上ります。日本は途上国の自立と発展に携わってきた上で「多くの国から評価されており、今後も期待に応える必要がある」と訴えます。JAや農業者が貢献できる「人間の安全保障」の核心をはじめ、「開国進取」の精神の必要性を語っていただきました。

途上国の自立と発展に大きく貢献している日本の国際協力。多くの国から「尊敬」と「期待」を集めています。

国際協力で「世界の期待」に応え続ける

 国際協力機構(JICA)は、途上国の農業支援を行うため、2019年5月、JA全中と連携協定を結びました。協定の意義をお話しする前に、まずは、日本の国際協力とJICAが果たしている役割を説明させていただきます。
 私はかつて国連大使(国連代表部次席代表)として、現在はJICA 理事長として、途上国の自立と発展に携わっていますが、痛感させられるのは途上国の経済・社会の発展の難しさです。世界には1日1.9ドル(約200円)以下で暮らしている人が約7.7億人もいます。国際協力は一国の中で例えれば、所得の移転を税金の徴収を通じて行い、貧しい人にも福祉が行き届くようにするのと同じです。日本のような先進国は国内での格差対策とともに、国際社会で途上国を支援する責任があります。
 第2次世界大戦後、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)では、先進国は開発協力予算を国民総所得(GNI)の0.7%とすることを目標に定めました。2018年の日本の政府開発援助(ODA)総額は、1兆5,646億円(141億6,707万ドル)で、アメリカ、ドイツ、イギリスに次ぐ世界4位ですが、GNIの0.28%にすぎません。これは、目標0.7%にはるかに届かず、DAC加盟29か国で16位(2018年暫定値)です。1兆5,646億円は想像もできない大金ですが、残念なことに国全体としては、稼いだお金に比べると国際協力に使うお金が少ないのです。90年代、日本は総額世界1位のODA大国でした。今は厳しい財政事情ですが、「国として、世界の期待に応え続けられているのか」という自問自答をすることが大切になっています。

世界で評価されている日本のODA

 JICAの名前を見聞きしたことがあっても、どのような活動を行っているのか、具体的に知っている人は少ないかと思います。JICAの役割は、わが国のODAの実施機関として効果的な協力を行い、対象国との関係を良好にすることです。海外に96拠点を持ち、2018年度は148か国に対して協力を行っています。協力の主なアプローチは、①有償資金協力、②無償資金協力、③技術協力、④海外協力隊、⑤国際緊急援助などで、フルメニューを一元的に実施しているのは日本だけです。他国で実施していないのが④の海外協力隊です。協力隊員は途上国の発展のため、時には水道も電気もないところに入り込んで活動するなど、「人を助けたい」という精神で、地をはうような努力をしています。
 JICAの協力は、日本の価値基準を押し付けて、見返りに影響下に置こうとするものではありません。対等な関係で現地の事情に即した事業を行い、現地の方々とともに自立と成長に協力する手法で対象国の発展に大きく貢献しています。日本のODAの実績は国際的にも知られており、多くの国で評価されているのです。その理由として、JICAが上から目線でなく、相手の気持ちに寄り添って国際協力を行ってきたことがあります。JICAの仕事の中心の第一はインクルーシブ(包摂的な)、レジリエント(危機や災害に強い)、サステナブル(持続的な)の3つの側面を持ち合わせた「質の高い成長」です。
 第二は「人間の安全保障」です。基本にあるのが、全ての人間には「恐怖」や「欠乏」から自由になり、尊厳を持って生きる権利があり、政府や国際社会は、それを支援する義務を負うという概念です。2001年、緒方貞子元国連難民高等弁務官(JICA初代理事長)らを共同議長にする「人間の安全保障委員会」が国連に設置され、2003年に報告書が提出されました。その実践のため、私も国連大使を務めた2004~2006年、人間が尊厳を持って生きるには、われわれはどのような責務を果たせるのか議論しました。日本では人間の安全保障を2015年に決定された「国際協力大綱」の中心概念として取り入れるなど、日本外交の柱の一つとなっています。
 持続可能な開発目標(SDGs)の中に人間の安全保障という言葉はありませんが、「誰も取り残さない」という人間の安全保障の考え方が明示されるなど、相通じる部分が多いのです。「質の高い成長」や「人間の安全保障」を達成するには、JICAのような実施機関のみならず、多様な組織と協働するパートナーシップが重要になっています。途上国の課題解決にJAの持つ人材や技術、積み上げられた知恵が貢献できると思います。

「人間の安全保障」の核心に協力する

「欠乏からの自由」は、人間の安全保障の核心的なテーマです。JAの皆さんには、SDGsの目標2「飢餓をゼロに」にある「フード・セキュリティ」の実現に協力いただきたいのです。
 一番大事なのは、未来を担う子どもの命を守ることです。成育期にはカロリーを満たすだけでは発育阻害を防止できません。栄養バランスの取れた食料の摂取が必要です。JICAは2016年のアフリカ開発会議(TICAD)で、食と栄養のアフリカ・イニシアチブ(IFNA)を立ち上げ、2億人の子どもたちの栄養改善に取り組んでいます。「みんなの学校」プロジェクトでは、小学校を地域の中心と位置付け、学習環境の改善や給食を実施しています。かつて給食は戦後日本の復興の支えになりました。今、アフリカでも十分な食事を取れない多くの子どもが給食の恩恵を受けていて、食材を作る地域農業が重要な役割を果たしています。
 人間の安全保障の理念は「自立」です。モノを渡すより作る方法を教えることが大事で、国の自立には農業が基盤になるのです。

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