私のオピニオン
根本かおる

Nemoto Kaoru
国連広報センター所長

「SDGs」を聞いたことはあるが、自分と関係のない「遠い世界の話」と思っている人の意識を変えるため、SDGsの広報活動に奔走する根本かおるさん。SDGsは人々の暮らしの足元にある問題解決にもつながる処方箋であり、17目標と169ターゲットには自分自身や家族、友人などと同時に地球全体に関わります。「自分事」としてアクションを実践してほしいと呼び掛けます。

地球全体の課題――「気候変動」と「貧富の格差拡大」
全てのステークホルダーが当事者となって解決に取り組むのがSDGsです。

私たちの問題を解決する「処方箋」

 「SDGs」(エスディージーズ)。「持続可能な開発目標」と訳されますが、皆さんも「SDGs」を見たこと、聞いたことがあるのではないでしょうか。気候変動や貧富の格差拡大など直面するグローバル課題を包括的に捉えた国連の目標です。
 今年のお正月に放映されたドラマ『義母と娘のブルース』(TBSテレビ)では、綾瀬はるかさん演じる主人公がSDGsに言及する場面がありました。フジテレビは、水曜の夜にSDGsに関わる人たちを紹介する『フューチャーランナーズ』を放送しています。若い女性に人気のファッションモデルが出演する「東京ガールズコレクションしずおか」は、2019年から「forSDGs」とSDGs推進をテーマにしています。
 若い世代を中心に認知度は上がっているのですが、残念ながら、まだ自分と関係ない「遠い世界の話」と思われがちです。しかし、決してそうではありません。日々の生活と地続きにあって、社会の中にある問題を解決する「処方箋」になるのです。「自分事」として、皆さんの活動の中にSDGsを当てはめるためにも、どのような経緯で誕生したのか、ここからお話しをさせていただきます。

 全ての国が「当事者」として

「このままでは、未来の世代に豊かな地球を継承できない」という切実な危機感が世界中で共有されたことで、2015年9 月、全ての国連加盟国の総意でSDGsが採択されました。持続可能な世界をつくるための行動計画「アジェンダ2030」が掲げるSDGsは、主に経済、社会、環境の3つの側面を捉えた17分野にまたがる目標で、2030年がゴールイヤーです。
 危機感が生まれた背景には、21世紀に入って、国境を越えた気候変動と貧富の格差拡大による「社会の不安定化」が人類の大きな脅威になったことがあります。いずれも国家の枠を超えて取り組むべき地球全体に関わる課題です。国連が目標を設けて推進する取り組みとして、SDGsの前身にMDGs(ミレニアム開発目標)がありました。2015年を目標年に極度の貧困人口の半減、乳幼児や妊産婦の死亡率を下げるなど、主に途上国の課題の解決に、先進国がODA(政府開発援助)で支援するものでした。しかし、サハラ砂漠以南のアフリカなどでは、ガバナンスの問題や気候変動の深刻化、紛争の増大などがあり、思うような成果を上げられませんでした。
 近年、猛暑、豪雨、干ばつなどが世界中で頻発し、水や森林、耕作地などの資源の枯渇をもたらしています。また、先進国と途上国の間で、あるいは国家の中で貧富の格差が拡大することで、「不平等感」が人々の不満を誘発し、過激な思想とテロがまん延しています。気候変動と貧富の格差拡大が相互に影響する悪循環で紛争や人道危機が生まれやすくなっており、長期化しているのが世界の現実です。世界の難民・避難民の数は「平和でないこと」を示すバロメーターですが、2018年末には第2次世界大戦以降で最悪の7,000万人を超えました。
 これらの国境を越えた課題は、途上国と先進国を区別して考えることができません。天然資源の消費量が圧倒的に多く、気候変動の原因である温室効果ガスの主要な排出国は先進国です。先進国の人々が現在のライフスタイルを見直さない限り解決につながらないのです。
 MDGsの成果と教訓を踏まえて、3年にわたって政府だけでなく企業や協同組合などの団体、NPO、女性、若者、障がい者、先住民などあらゆる立場の人々がコンサルテーションに関わり、さらには市民1,000万人がアンケートに参加、こうして誕生したのがSDGs。それは「世界共通の座標軸」であり「人類の共通財産」なのです。全ての人や組織が「当事者」として解決に向けて取り組むことが大切です。

「誰一人取り残さない」社会を実現する

「日本も当事者」と指摘されても、ふに落ちない読者の方も多いかもしれません。確かに日本は豊かな国です。でも、子どもの7人に1人は貧困ライン以下の生活をして、特に母子家庭では5割を上回っています。相対的な貧困が日本にも厳然とあります。また、ここ数年、気候変動が原因と思われる大型台風や豪雨の被害が各地にもたらされています。貧困や気候変動の危機から日本に暮らす人々を守る課題に向き合わないまま、途上国の子どもや女性の安全や尊厳を議論しても説得力に欠けてしまうでしょう。
 SDGsには大事な理念があります。それは「誰一人取り残さない」です。日本社会には障がい者、LGBT(性的少数者)、外国人労働者、災害被災者など、脆弱ぜいじゃくな立場にあるマイノリティーが多く存在しています。政策決定の場に意思が反映されづらい人々の声をすくい上げなくてはいけません。そのためには、経済発展によるトリクルダウンや市場原理に頼るのではなく、誰もが尊厳を持って受け入れられる「誰一人取り残さない」社会を実現することが、私たちに求められているのです。

SDGsの大事な理念は「誰一人取り残さない」
脆弱ぜいじゃくな立場の人の声をすくい上げる社会の実現を目指します。

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