私のオピニオン
湊 かなえ

Minato Kanae
作家

自著を語る 人生の「幸せ」とは何だろう

「認められる場所」があること

 出版社から提案された新作のテーマは「美容」でした。しかし、私自身はそこにあまり関心がありません。化粧は外出時のみ、洋服に対するこだわりもほとんどありません。入ればいい。緑色と茶色が好きかな、といったところです。
 しかし、「食」に関しては多大なる興味があり、がんばった自分へのごほうびはすべて「おいしいもの」となっています。特に、炊飯器を買い替えてからは、お米のおいしさに目覚め、いろいろな銘柄のお米やご飯のおともを取り寄せ、至福の時間を過ごしています。
 結果、作家活動10周年を迎えた頃には、デビュー時より10キロ以上体重が増えましたが、それすら健康上に大きく影響していないので、気にすることはありませんでした。

 そんな私が「美容」について何を書く? とはいえ、いざ「美容」を意識すると、世の中に「美容」の情報はファッション誌を中心にあふれかえっています。それほど多くの人が関心を持つ分野に、どうして自分は目を向けてこなかったのか。
 おそらく、そこではない分野に、自分が夢中になれる、そして、認められる場所があったからではないか。
 そんな思いに至ったのは、ジグソーパズルをしている最中でした。似たようなピースが交ざる中から、これではないかと選んでみたものの、パチリと上手うまくはまらない。無理して押し込むと、周りまで崩れてしまう。これではなかったのかと別のピースを探す。はまらなかったピースも、別のところには違和感なくおさまり、これはここだったのかと、出来上がりつつある絵を見ながら納得する。
 自分も世の中においてはピースの一つなのかもしれない、いくつかのピースが集まって、家庭ができ、コミュニティができる。私の場合、本が完成する。たとえば、画家やイラストレーターの方はたくさんいるけれど、誰でもいいわけではない。内容や読者層にバッチリ合った表紙画を描いてもらえると、はまったな、と感じます。

「大切なもの」を見失わない

 人生において「幸せ」とは何だろう。その問いに、その時々の自分なりの答えを出してきたつもりですが、もしかすると、自分が違和感なく存在できる場所があることかもしれない、と思い至りました。
 生きづらさを感じるのは、今いる場所にうまく溶け込めていないと感じるから。パズルのピースの形は変わりませんが、人間の姿形、そして、内面は、ずっと同じではありません。また、自分に変化はなくとも、周辺の環境が変わることもあります。そんな中で、居心地の悪さやここではないという違和感、そして、周囲からの圧力を感じた時、どう対処すればいいのか。
 その場所におさまることができるよう、自分が変わる。
 今のままの自分がおさまることのできる、新しい場所を探す。
 ピースの形を変えるのは、悪いことではありません。自分がなりたい姿、ありたい人間像を思い浮かべ、そこに向かって努力することは、結果だけでなく、過程も自分を支えてくれるものになります。厳しい食事制限や運動も、苦しみの中に、理想の自分に近付いているという喜びを見いだせるのではないでしょうか。しかし、そうでない場合。他者からの承認を得るために、自分を変えようとする行為。それはもう、変化ではなくゆがみと呼んだ方がいいかもしれません。

 私が10代、20代、だった頃、サイクリングや登山に明け暮れる娘に母親は、毎日化粧をしろ、ジーパンなどはかずにワンピースなどの女性らしい服装をしろと、口酸っぱく言っていました。それだけでもうんざりしていたのに、SNSが発達した現在は、他者の容姿に当たり前のように口を出す人が多くなりました。
 個性の尊重を声高に主張する人が、同じ口で、自己の定める基準から少しでも外れた人を見つけては、口出しをしています。しかも、善意や正義という名のベールをかぶせて。それを受けた相手がもがき苦しむ様も想像せずに。欠点を指摘したがる人はごまんといます。しかし、その人たちからの承認を得るために、無理をして自分を変えても、その人たちの大半は、ほめてはくれません。本来、欠点を指摘することが好きな人たちなのですから。せいぜい、許す、です。
 それでも、私を含め、多くの人は他者から認められること、受け入れられることをのぞみながら生きているはずです。そんな中で大切なものを見失わないためにも、変化の先にあるもの、自分が理想とする絵を想像しながら、自己の姿に向き合ってほしい。
 世の中は、自分が変わらなければならないか、新しい場所を探すかの、二者択一ではありません。自分も変われるし、周辺の人たちも変わることができるのです。近くにいる人が生きづらさを抱えていることに気付いたら、その人のために、自分の接し方を変えることもできる。そんなメッセージを込めながら、『カケラ』という作品を書きました。
 心豊かな日常生活の一片にしていただけると、幸いに思います。

みなと・かなえ

1973年広島県・因島いんのしま生まれ。実家はミカンやハッサク、ネーブルを栽培するかんきつ農家。2007年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞、受賞作を収録した『告白』でデビュー。同作で09年本屋大賞を受賞。12年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門、16年『ユートピア』で山本周五郎賞を受賞。18年『贖罪』がエドガー賞候補となる。その他の著書に『夜行観覧車』『白ゆき姫殺人事件』『母性』『山女日記』『リバース』『未来』『落日』など多数。映画やドラマなど映像化作品も数多い。現在、兵庫県・淡路島で暮らす。

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