私のオピニオン
小島 慶子

Kojima Keiko
エッセイスト

「ひとりじゃないよ」
苦境にある誰かのために何かを担う

不安な日々、生きている実感を取り戻す

 新しい年を迎えましたが、なかなか晴れやかな気持ちにはなれませんね。2020年は、新型コロナウイルスの流行の影響で、生活が激変したり、気持ちが大きく揺さぶられたりした人もいるでしょう。今もたくさんの人が経済的な不安や健康不安との闘いの中にあります。
 私も2020年の前半は、多くの仕事が延期や中止になり、とても不安な日々を過ごしました。オーストラリアに住む家族とも会えなくなり、日本での一人暮らしが1年以上続いています。毎日ビデオ通話で夫や息子たちと励まし合っていますが、会えない寂しさは募るばかりです。 つらいことがあるとつい「他の人は何も心配事がなさそうだな」「こんなに心細いのは自分だけだろう」と気持ちが後ろ向きになってしまうこともありますね。それ自体は自然なことです。他の人が気になってしまう時は、しばらくインターネットやテレビと距離を置くのもいいでしょう。

 社会情勢の変化による不安の厄介なところは、自分ではどうすることもできないことです。やれることはやったけど、不安はなくならない。「どうしよう、どうなるのだろう」と思うばかりで、手の打ちようがないことが一番つらいですよね。私も昨年、そんな絶望的な気持ちになって途方に暮れた夜もありました。
 そのうちに「この不安ばかりは自分ではどうしようもないけど、何か小さなことでも自分でどうにかできることはないかな」と考えるようになりました。「よし、では今はこの、目の前のお皿を洗おう」「次は花に水をやろう」と本当に些細ささいなことを一つ一つ重ねては「できたぞ」「これもできた、では次は」とやっているうちに、少しずつ少しずつ気持ちが落ち着いてきて、生きている実感を取り戻すことができました。

誰かを助けることは、自分自身を支える

 ちょうどその頃、コロナ危機で70万人余りもの非正規雇用の女性たちが職を失い、多くの女性が経済的苦境に陥っていることを知りました。その数は男性の倍にもなります。中にはシングルマザーで食べるものにも困る状況の人も。そこで友人たちと、困っている女性たちを支援している、実績のあるNPOなどの支援団体を集めて掲載した寄付サイト「ひとりじゃないよプロジェクト(hitorijanai.org)」を作りました。サイトを訪れた人が、応援したいと思った団体に直接寄付できる仕組みです。
 寄付を「お金で済ませようとするなんて」「自己満足」という人もいますが、私はそうは思いません。お金には力があります。10円でも100円でも、集まれば確実に誰かを助けることができます。支援団体が炊き出しをしたり、シェルターを提供したり、子どもの学習支援をしたりするための資金になり、汗をかいて人助けをする人の活動を支えることができます。人助けをしている団体は資金が豊富にあるわけではなく、団体自体が経済的に逼迫ひっぱくするような状況の中で、なんとか支援を途絶えさせまいと頑張っているのです。

 私も以前からできる範囲での寄付を続けてきましたが、2020年は収入が減り、仕事の見通しも立たなくなりました。今は多額の寄付はできなくても、たくさんの人に呼びかけて、寄付する人を増やすことはできるかもしれないと考えました。
 日本ではまだまだ日常的に寄付をする習慣は広がっていません。無理のない範囲で無理のない時に、あるいは毎月負担にならない金額で寄付をすることは、確実に誰かの命をつなぎ、生きる支えになります。「自分は誰かの役に立つことができる」と思うことができます。これは自己効力感を高め、心を健やかにする助けにもなります。誰かを助けることは、自分自身を支えることでもあるのです。

助け合いが循環する世の中に

 コロナ危機では、それまで普通の生活をしていた人が金銭的に行き詰まり、「まさか自分が」という思いで孤立を深めているケースが少なくないといいます。そうした人たちに、食べ物や寝る場所や相談窓口などを提供するのが支援団体の活動です。もしも自分の生活が立ち行かなくなった時に、そうやって気にかけてくれる人がいたらどれほど心強いでしょう。
 今は感染拡大防止のために人との接触が制限されていますから、全国から現場に駆けつけてボランティアすることは難しいですよね。でも寄付なら、離れていても気持ちを届けることができます。支援団体の人たちはいつも「寄付のお金は活動の支えになり、気持ちは困っている人の心の支えになります」と話しています。

 困窮する人がいる一方で、コロナ危機でも収入に全く影響がなく、定額給付金が臨時収入になった人や、株が値上がりして資産が大幅に増えた人もいるでしょう。もしも今、大きな心配事もなく新年を迎えることができているなら、同じ空の下で不安な日々を過ごしている人に「ひとりじゃないよ」と温かい気持ちを贈るのもいいかもしれません。誰かに助けてもらった人は、いつか自分が立ち直った時に世の中に恩返しをしたいと思うものです。そうやって助け合いが循環する世の中にできたらいいですね。

こじま・けいこ

1972年、オーストラリア生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業。95年、TBS入社、アナウンサーとしてテレビ、ラジオに出演する。99年、「第36回ギャラクシーDJパーソナリティー賞」を受賞。2010年、フリーランスに。各種メディア出演のほか、執筆・講演を精力的に行っている。『AERA』『VERY』『日経ARIA』『withnews』などに連載中。著書に『解縛』『るるらいらい』、小説『ホライズン』など多数。14年よりオーストラリア・パースに移住。夫と2人の息子は現地で生活し、自身は日本に仕事のベースを置いて行き来している。

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