私のオピニオン
島田 慎二

Shimada Shinji
Bリーグ チェアマン

辣腕 らつわん 「経営者」が悟った
一番大切なのは社会全体の「幸福」

Bリーグを通じた「地域活性・創生」

 日本バスケットボール協会は「バスケで日本を元気に」という理念を掲げて活動をしています。その中で男子トップリーグであるBリーグは、2016年に開幕しました。B1からB3まで全国に47のクラブがあります。それぞれのクラブが理念の担い手の自覚を持って、ホームタウンを盛り上げ、Bリーグが「地域活性・創生」の集積体となって、日本を元気にしていきたいと思っています。
 Bリーグがホームタウンにもたらす「価値」には、「社会的価値」と「経済的価値」があります。社会的価値には、例えば、高齢の方が地元のクラブを応援することで生きがいを感じ、健康寿命が延びることがあります。大声を出して応援することはストレスを解消、ワクワクして元気になります。また、地元を離れた若者が郷土に誇りを感じて、Uターンすることもあります。社会的価値は、必ずしもお金で換算できない形のないものですが、クラブの努力、創意工夫によって、それらを顕在化させることで、目に見えない貢献が地域住民に認識されるようになります。これがクラブを経営していく上で「肝」になるのです。
 経済的価値では、アウェー(対戦相手)のファンが訪れ、宿泊や飲食して、お金を落としてくれます。B1リーグは年間60試合の半分がホームタウン開催で、1試合の平均観客は約3,000人です。クラブが存在することで、地域に1,000人単位の人が交流、お金が循環し、仕事、雇用、投資などの経済効果が創造されます。
 地域活性・創生の担い手が、必ずしもBリーグである必要はありません。他のプロスポーツや文化・芸術でも構いません。バスケットボールは、野球やサッカーと比べてコンパクトな競技です。クラブを運営・維持する費用が少ないので、大都市でなくても成り立ちます。人口や経済規模が小さい地方であればあるほど、経済効果は大きくなり、地元の人にとっても生きがいの存在にもなり、ホームタウンに対する「存在意義」が真に価値あるものになれると思っています。
 地域に密着するBリーグと、地方の基幹産業である農業の振興を担うJAは、「地域を盛り上げる」という理念や存在意義で親和性があります。既にいくつかのクラブがJAと連携しており、選手が地元の農畜産物のPRに取り組んでいます。Bリーグは誕生して間もない組織なので、しがらみにとらわれることなく、何事にも柔軟性を持って対応できます。ユニークな取り組みとして、「アルバルク東京」が、JA東京中央会が実施した「農業男子×総選挙」の投票をSNSでファンに呼び掛けるなど、盛り上げに一役買いました。

経営者としての「求心力」

 プロスポーツの経営は、優勝して選手と抱き合い、ファンと喜びを分かち合う「リアルな感動」を体験できるのが、他では得難い 醍醐味 だいごみ です。しかし、その勝ち負けという思うようにコントロールできない不確定な要素が経営に大きな影響を与えるといわれます。でも私は、2012年「千葉ジェッツ」の社長に就いて、全力の努力と創意工夫で1人でも多くの観客を呼び込み、1社でも多くのスポンサーを集め、「人事を尽くして天命を待つ」を実践しました。光とチアリーダーのダンスによる派手な演出など、アリーナ(試合会場)をライブエンターテインメントとして魅力を高めたことで、バスケットボールに関心のない人も来場するようになりました。経営が安定してくると、有力選手を獲得できる財務の余裕が生まれ、人気・入場者数と成績の相乗効果が好循環をもたらし、上昇軌道に乗りました。つぶれる寸前だったのが、売り上げ17億円(2019年6 月期)を突破するリーグ随一の強豪クラブに押し上げる「結果」を出したことで、経営者としての求心力が高まりました。人の心ほど移ろいやすいものはありません。期待に応えられなくなると、その経営手腕は懐疑的に見られます。選手やファンにとって、経営者は私でなくても構わない、結果を出す人が望ましいのです。それができなくなれば去る(辞する)。シビアですが、潔さがプロスポーツに限らず、経営者には必要だと思っています。

「利他の思想」に衝撃を受ける

 経営者としての「礎」になっているのが、旅行会社を経営していたときに出合った京セラ創業者・稲盛和夫さんの著書『敬天愛人』で紹介されている「経営者は全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」という言葉です。自分、自社さえ良ければいいのではなく、社会全体の「幸福」を大事にする「利他の思想」に衝撃を覚えました。あの頃は、会社はもうけて給料を上げれば、社員は満足するという 傲慢 ごうまん な考えを持っていました。今から思えば、恥ずかしいのですが、私の会社には大義や理念がなかったのです。Bリーグのチェアマンに就任しても、リーグの理念を実現するため、何をするべきか、常に「逆算」して思考、行動しています。
 クラブが何のために活動するのか、それぞれのホームタウンで明らかにすることが大切です。それらは、Bリーグやバスケットボールの繁栄ではなく、社会全体の幸福であることは言うまでもありません。

しまだ・しんじ

1970年、新潟県生まれ。92年、日本大学法学部卒業、マップインターナショナル(現エイチ・アイ・エス)に入社。2001年、旅行会社を創業、10年、事業発展のため東証1部企業に売却。12年、当時bjリーグに所属していた「千葉ジェッツ」の社長に就任。16年のBリーグ開幕後2017-18、2018-19シーズンで2年連続リーグ準優勝。19年、天皇杯3連覇。2019-20シーズンには1試合平均入場者数5,116人で4年連続リーグ1位にするなど、リーグを代表する実力・人気を伴う強豪クラブに押し上げた。実績と手腕が評価されて20年、Bリーグチェアマンに就任。趣味はバックパッカーとなって海外旅行すること。

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