私のオピニオン
渡邊 享子

Watanabe Kyoko
株式会社巻組 代表取締役

株式会社巻組における取り組み

はじめに

 私は現在、宮城県石巻市を拠点に「巻組」という会社を立ち上げ、主に空き家の利活用に取り組んでいる。震災当時、まだ学生の身分でボランティアとして同市に移住した私は、近年では市外にも活動領域を拡張し、空き家活用に取り組み続けている。
 同市では、震災当初、2万戸以上の住戸が全壊した。一方で、この十年間に住宅復旧が急速に進められ、復興予算により約7千戸の住宅が供給されたと言われている。一方で、震災当初から人口流出や自然減少等で、2万人程度減っている。結果、平成30年の住宅土地統計によれば市内には空き家が1万3千戸ある状況となった

東日本大震災からの復興とSDGs

 復興事業により残されたものは、地中20mほどに耐震用のくいをうちこんで実現した高層マンションの建設。海と集落との間に10mものコンクリートの無機質な壁を建てた防潮堤などである。この10年のうち、宮城県内で復興事業のために負担された建設費は約76億円に及ぶ。当然この過程で大量のCO2が排出され、地域の労働力は搾取された。
 この住宅供給の矛盾は、戦後、人口増加が進んだ高度経済成長期の住宅開発を平成に再現したかのようだった。2015年に国連総会で「持続可能な開発目標」(以下:SDGs)が採択されてから日本の多くの自治体はモデル認定都市を目指し、行政職員や大企業の従業員の多くが17色のカラーホイールのバッチをつけている。しかし、持続可能な社会が各分野の錦の御旗みはたとなった令和の時代に依然として大量生産大量消費の価値観を抜け出せていない。
 そんな状況下において、空き家の利活用をきっかけにしながら、楽しく幸せな方法で持続可能な社会を形づくりたい。その最先端の姿を震災で大きな傷をおった石巻から発信したい。それが弊社に大きく課せられたミッションである

持続可能な社会経済とは

 それでは、「持続可能」とはそもそもどんな状態をいうのであろうか。SDGsは貧困や気候変動、ダイバーシティに対応しながらこれまで通り資本主義社会を発展させて対応させていくためのスローガンであるが、それは本当に「持続可能」な状態なのだろうか。社会学者の斎藤幸平は、「SDGsは、資本主義のつらい現実が引き起こす苦悩を和らげる大衆アヘンである」と評している。筆者が、持続可能性の本質を考え続けてたどり着いたのは生命学者の福岡伸一が著書『動的平衡』の初巻で述べた一説であった。
「合成と分解との平衡状態を保つことによってのみ、生命は環境に適応するように自分自身の状態を調節することができる。これはまさに『生きている』ということと同義語である。サステナブル(持続可能性)とは常に動的な状態のことである。」
 動的平衡の状態とはそれぞれの分子がそれぞれ逆向きに運動することで釣り合いがとれる状態であるとされるが、持続可能性とはまさにこうした有機的な生命の活動ではないだろうか。そして、都市を生命のように持続的な有機体と捉えるなら、都市を構成する人材や建築物は有機体を構成する細胞のようなものだ。多様な細胞が日々、それぞれのベクトルで運動することで、生命が持続可能な状態を実現するならば、街を構成する要素は多様であるべきである。
 弊社はそうした、都市の動的平衡を実現する不動産のあり方を模索したいと考えている。空き家が増えてしまった中で、誰にも使われず朽ちていく廃屋に近いものを、ほぼ無料でいいので引き取って欲しい。多くの大家さんからのそんなご要望に応え、そうした不動産に価値を付けて次の時代を生きる人々の幸せな暮らしにつなげるのが、私たち巻組の仕事である。使い始めてみると、ものづくりをするために、汚れたり壊れたりしても問題ない場所を必要としているクリエイター。狩猟や漁業に取り組みながら制作活動に取り組みたい、広い制作現場を必要としているアーティスト。最近では、市外からリモートワークに取り組む起業家やデザイナーが入れ替わり立ち替わりやってくる。地域の中では誰も目もくれない廃屋は、こうした人々の創造の自由を許し、新しいライフスタイルの温床となる。
 我々が大量生産社会の中で無価値だと思い込んでいるものは、見方を変えれば大消費地では決して得られない価値になる。そんな彼らの姿を見て、大資本によって生み出されたものを受け身で消費するのではなく、そうした経済・社会に疑いの目を向けて、価値を主体的に創造する人材を育てるため様々な取り組みを行っている。

株式会社巻組のホームページ紹介
https://makigumi.org/

①トップページ

出る杭、作ります。

石巻は、これまでこの国が(もしかしたら、この世界が)
体験しなかったことを体験した。
だからこそ、それを乗り越える石巻からは、
最先端のアイデアが生まれる。
最先端のライフスタイルが生まれる。
だからこそ石巻は、
世界が見たこともないクリエイティブシティになる。

巻組は、そう信じる、
石巻のクリエイティブチームです。

場や、体験や、プロダクトから、
今ある言葉では定義できない何かまで。
石巻内外の人、企業、団体とチームを組み、
様々な人を巻き込んで、世界を驚かすものを作りたい。
既成概念をひっくり返す、
誰も打つことのできない出る杭を作りたい。
徹底的に手作りで。徹底的に未来志向で。

巻組と、組んでみませんか。巻組に、巻き込まれてみませんか。

②巻組について

心が喜ぶ「幸せな生き方」、
不便を楽しむ文化的な暮らしを
ジャンルレスなビジネス手法で実現


 2011年3月11日14:46。
 我が国をM9.0の地震が襲い、三陸沿岸を中心とした大津波を併発。福島県での痛ましい原発事故を誘発し多くの犠牲を伴う大災害となりました。
 ちょうどその頃、私は東京で取るに足らない大学院生をしていました。日本の街が観光客にも社会的弱者にも魅力的で住みやすい地域になったらいいと想い、都市計画を学ぼうと大学院に進学しました。が、そんな熱苦しい想いは周囲から浮いてしまい、自身の技術の無さに挫折し、とりあえず同級生と足並みを揃えて大企業に就職できないかと両親に新調してもらった黒いリクルートスーツを着て新宿のビル街を歩いていました。誰にも必要とされていない気がして、いつも心の中で世の中つまらないなと思っていました。

あの地震が起きたのは、
ちょうどその時でした。


 震災から2ヶ月後、私は研究室の仲間たちと一緒に、ご縁があって宮城県石巻市をボランティアとして訪れました。私のように何か役に立てることがあればと同市に支援に駆けつけたボランティアの若者は、発災後の1年間で約28万人にのぼりました。彼らの一部は、石巻の人々に惚れ込んで地域経済の再生に関わりたいと起業して、そのまま石巻に移住しようとしました。
 しかし、全壊家屋約22,000戸の被害となった同市では震災後2~3年間は住宅不足に陥っており、移住者は容易に住居を取得することができない状況でした。志ある彼らが「家がない」という理由で石巻から離れてしまうのは残念だと思い、なんとか古い空き家を探してリノベーションし、活用を始めました。巻組の活動はそこから始まっています。
(株式会社巻組 代表取締役 渡邊享子 挨拶より抜粋)

③巻組のビジネス

巻組のビジネス・巻組の考え方
 私たちの仕事は、「一見無価値な不動産を資源としてクリエイティブな人々につなげていくこと」。
 着目するのは、古くて立地条件が悪く設備も未整備な、いわゆる「絶望的条件の空き家」です。それを魅力的な場所へとリノベーションし、石巻を舞台にクリエイティブな生き方を実践する人たちへとマッチングします。巻組は、彼らがそうした活動の舞台を得ることで新しい事業を生み出し、順調に拡大成長していくことこそ、持続可能な地域経済を作る基と考えています。
 そこに暮らす人が価値を創造するために、無価値に見える不動産を資産化して提供する。
 その集積によって、人口減少が進む地域はむしろイノベーションを生む土壌に生まれ変わる。その実現を目指し、私たちは以下の領域で事業を行っています。

④巻組の強み

ポイント ① 巻組によるリスクの引き受け
 多くの「絶望的条件の空き家」のオーナーは個人の高齢者で、自ら融資を受けるなどのリスクを負って収益化に挑戦する体力がありません。そこで、巻組が自ら資金を調達し、物件を買い取りまたは借り上げることによってリスクを引き受けます。巻組が間に入ることで、個別の物件には集まりにくいリソースを仕組みづくり・受け皿づくりに集中させ、結果として物件が動きやすい環境をつくっています。

ポイント ② マッチングだけで終わらない入居者支援
 どんな物件も、使い手が入居・滞在して初めて「家賃・宿泊料」というキャッシュを生みます。人口が多い大都会の賃貸マーケットと根本的に事情が異なる石巻で、巻組はむしろ、「私たちの物件はこんな人に使ってほしい」というイメージを持ち、そうした人たちを「呼び込みプールし支援する」ことで精度の高い(空室・滞納の出ない)マッチングを実現しています。その多くが移住者や二地域居住者であり、また起業家やポートフォリオワーカー、アーティストなど、既存の枠にとらわれないクリエイティブな生き方をする人たち。彼ら自身のビジネス成功に向けた支援や販路づくりを含めて、石巻で幸せに生活できる環境づくりをトータルで目指しています。

ポイント ③ 投資家にも地域にも恩恵のある循環づくり
 巻組のビジネスモデルは、入居者募集を通じた移住・起業促進によって町の活性化につながっているだけでなく、空き家の改修に地元の職人さんや地元産材を活用することで、地域経済にも貢献しています。さらに投資家・金融機関は、巻組への投融資を通じて、「まちづくり」「地域経済の活性化」という社会への貢献を間接的に実現していることになります。

(以上については、編集部においてホームページより抜粋しました)

わたなべ・きょうこ

2011年、大学院在学中に東日本大震災が発生、研究室の仲間とともに石巻へ支援に入る。そのまま移住し、石巻市中心市街地の再生に関わりつつ、被災した空き家を改修して若手の移住者に活動拠点を提供するプロジェクトをスタート。2015年3月に巻組を設立し、地方の不動産の流動化を促す仕組みづくりに取り組む。会社経営のかたわら、一般社団法人ISHINOMAKI2.0理事も務める。2016年から2019年は東北芸術工科大学講師として教鞭きょうべんを執った。2016年、COMICHI 石巻の事業コーディネートを通して「日本都市計画学会賞 計画設計賞」を受賞。2019年、「第7回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション 女性起業大賞」を受賞。

巻組について
2014年4月 創業
→2015年3月 合同会社巻組として設立
→2021年5月 法人格を変更し、株式会社巻組となる

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