私のオピニオン
清野 隼

Seino Jun
筑波大学 体育系 スマートウエルネスシティ政策開発研究センター 助教

スポーツ栄養学から見た“おコメ”の重要性と魅力
――スポーツ現場からのメッセージ

コロナ禍がおコメをアスリートの必需品に?

図1 海外遠征中(カナダ)の食事一例
長い海外遠征期間中の食事で、競技パフォーマンスに重要な炭水化物源となるものは、パンやパスタ、イモ類、果物などに限られてしまい、善かれあしかれその習慣に慣れてしまうことも見受けられていた

 2022年2月から3月にかけて、北京五輪・パラリンピック(以下、「北京大会」)が控えている。東京2020が終了してその余韻が残る中、北京大会を目指す選手たちは選考大会に向けて、慌ただしく練習やトレーニングに励んでいる。
 私がサポートしている競技の選手は、新型コロナウイルスの影響で昨年の海外遠征を全く行うことができなかった。北京大会に向けて約1年半ぶりの遠征を前に、各国の入国規制や隔離条件など不透明な状況がやむを得ない中、私はある選手と一緒に遠征への持参品リストを選ぶ打ち合わせを行っていた。すると、「おコメは絶対に持っていきます。重量超過を考えたとしても最優先ですね。向こうで炊きます」と発言したのだから驚いた。「どうしたの?」と思わず聞き返してしまった。
 背景として、その選手は以前から海外遠征期間が長く、持参品としておコメを持っていくこともなかった。多くの選手が確実に持参品におコメを入れるにもかかわらず、である。その選手は、善かれあしかれ海外の食事(図1参照)を取る習慣がすでにできていた。従って、私もあえて自らおコメを薦めることをしてこなかったわけである。その選手に「その変わり様はどうしたのか?」と問うのは、スポーツ栄養士にとっては自然な反応だったと思う。
 その選手は、「このコロナでずっと日本だったじゃないですか。その間にご飯を食べる習慣になって、海外でも隔離されるかもしれないし、もう習慣だから食べて試合に挑みたいなって」と答えた。すらすらと当たり前かのように答えたことにも驚いて、思わず互いに笑い合ってしまった。改めて食は、生活の中に習慣化されていて、いわばその人にとって当たり前の文化であることに気付かされた。新型コロナウイルスは、本稿で語り切れないさまざまな社会変化を生み出したが、海外を転戦するトップアスリートとして、日本の食文化ともいえるおコメを食べる習慣と魅力、そして喜びに再び出会えたことは、ポジティブに感じたところだった。

アスリートの健康やパフォーマンスの側面から見た“おコメ”の重要性

図2 大学ラグビー選手の夏合宿期間におけるエネルギーバランス
T5はタイト5、BRはバックロウ、BKはバックスのポジションを示す。3つの分類共に、エネルギーバランスが負になっている
引用:M Tokuyama and J Seino et al(2021)Nutrients, 13(9), 2963.(筆者和訳)
図3 大学ラグビー選手の夏合宿期間中の実際の食事 (ある一日の例)
夏合宿期間中は、このようにおコメを中心に十分と考えられる食事メニューが提供されていた
引用:徳山円香,清野隼ほか(2021)日本スポーツ栄養研究誌,14,108-121.

 筆者がポジティブに感じたのは、専門的にも理由がある。スポーツ栄養学から見て、おコメは言わずもがな重要な食品であるためだ。おコメの栄養価は、炭水化物はもちろんタンパク質も豊富に含まれており、適度な脂質やビタミン、ミネラルなど、健康やパフォーマンスに関連する栄養素が満遍なく補給できる。特に、選手の場合、練習やトレーニングなどによって常にエネルギーを消費し、一般人と比較して非常に多くの摂取エネルギーが必要となる特徴がある。
 筆者らの研究1) 2)では、大学ラグビー選手を対象にその実態を明らかにしている。図2 は、夏合宿期間中の摂取と消費のエネルギーバランスをポジション別にまとめている。この図が示す最も大きなことは、どのポジションにおいてもエネルギーバランスが負になっているということである。しかもこれは、単純に食べる量が少ないから負になっているのではなく、図3が示すように、おコメを含めて非常に充実した食事を取っていたにもかかわらず負だったということである。
 読者の皆さまは、この食事をご覧になってどのような印象をお持ちになるだろうか。私にとっては、ラグビーという競技特性や夏合宿中の練習内容なども踏まえて、申し分のない食事だと感じていた。事前に綿密に調整も行い、チームを一緒に担当するもう一人の管理栄養士も合宿に全て帯同してサポートを行った。しかし、これでも結果的に体重減少を防ぐことができなかった。その理由を探索していくと、重要なポイントとして、おコメが浮かび上がってきた。おコメの盛り付けは各選手に委ねられており、その喫食量に大きく個人差があり、エネルギー摂取量に影響が出てしまっていたことが明らかになった。そしてその分析の結果をまとめたものが図2である。自身に適切な量を理解した上で、おコメを食べていくことがどれだけ重要かということを再認識させられた事例であった。
 例えば、タイト5の選手の体重は92.9kgから112.6kg までの選手がおり、非常に身体が大きい。バックスの選手でも79.0kg以上であった。身体が大きければ大きいほど、筋肉量も含めた組織の重量は増え、必要となるエネルギー量は増大する。さらにそれに伴って練習やトレーニングなど、運動によるエネルギー消費がかさむことで、いわゆるエネルギーの利用可能性(EnergyAvailability:EA) が低い状態(Low EnergyAvailability:LEA)が続く恐れがある。このLEAが長期間続くことによって、次のようなことが起こると示されている3)

・代謝効率の低下
・持久力の低下
・疲労骨折の危険性の増加
・タンパク質合成の低下
・心臓血管および心理的健康状態への悪影響
・発育発達への悪影響
・貧血症状

 これまでは、特に女性アスリートの問題として、LEAと無月経や骨粗しょう症、貧血などの関係に注目されていたが、男性選手に対しても同様に注意が必要であることが示されている4) 5)。もしかしたら、選手たちに潜在的なリスクを生み出していたのかもしれないと思うと、サポートする立場として自責の念にとらわれる。このようなLEA状態を予防する重要な対策として、炭水化物の十分な補給があり3)、その主となる食品が“おコメ” というわけである。

アスリートの多様な“おコメ”との付き合い方

図4 小学生アスリートの昼食例(学校給食)
図5 高校日本代表アスリートの朝食例(実家暮らし)
図6 大学生アスリートの昼食例(一人暮らし)
図7 日本代表アスリートの夕食例(国内合宿時)

 冒頭の選手もそうだが、私たちの食卓には、その人自身の生活や習慣、文化、そして作り手や喫食者自身のおもいが表れていると感じる。図4から図7には、筆者がこれまでサポートしてきた別々の選手の食事を状況別に示している。一見、単純な食事写真かもしれないが、それぞれの背景がある。
 例えば図4の選手は、もっと身長を伸ばしたいという想いから、決まっている給食メニューの中でも残ったおコメを自分で盛り付けて多く食べている食事。図5 の選手は、世代別日本代表合宿で、他の選手が食べるおコメの量に驚き、自身も負けてられないという想いで母親と一緒に食事改革を行うという初日の朝食(初日から頑張りすぎた結果、次第に継続が難しくなっていったというオチもあるのだが)。また図6の選手は、一人暮らしで用意できるものが限られている中で、午後からの練習に備えて、おコメでエネルギーを満たすことを念頭に置いて主菜や副菜などは自身で購入してそろえている食事。そして図7の選手は、強化合宿時のリカバリーとして、スポーツ栄養士によってあらゆる栄養価やバランスが考慮されているが、その中でおコメの量は自分自身で調整して決めているという食事。
 改めてこれらの食事を振り返ると、実は選手一人一人が「もっと食べた方がいいよね?」「この量で大丈夫かな?」……そんな対話をしながら食べているように思える。食育は「知育、徳育、体育の基礎となる6)」といわれているが、まさにおコメを通して自身のコンディションの省察を行い、対話して考え、そして食べることによって体が育まれていくその出発点に、おコメがあると感じさせられる。

スポーツを通じて、日本の“おコメ”を世界、そして未来につなぐ

 東京2020を機会に、久しぶりに海外の関係者と対話をする機会があったが、「rice」ではなく「コメ」と発言していることに新鮮さを感じた。本稿も実はそれであえて、“おコメ” と表記している。「モチ」「ゾウニ」「スシ」、そして“ おコメ” 。多様な日本の食文化においても最も主である“おコメ” の魅力や重要性が、実はスポーツを通じて世界に発信され、多くの人々にとって原動力の支えになっているのではないかと、東京2020を通して改めて感じることがあった。
 おコメは、たとえ海外の選手であっても、日本人として誇りと自信を持ってお薦めできる、そんな食べ物である。そのような素晴らしいおコメを食べて、育った子どもたちが、また新しい未来のおコメ文化を創造していく。そんな持続的な循環を楽しみに、今日もスポーツ現場の栄養サポートに向き合おうと思う。

(本稿に掲載している選手自身が撮影した食事写真はご本人の許諾をもって掲載しております)

せいの・じゅん

2008年仙台大学体育学部運動栄養学科を卒業後、筑波大学人間総合科学研究科 スポーツ健康システム・マネジメント専攻を修了(体育学)。2021年筑波大学人間総合科学研究科コーチング学専攻論文博士(コーチング学)学位取得後、2021年3月に筑波大学博士課程修了(コーチング学)。森永製菓株式会社ウイダートレーニングラボスポーツ栄養士職など歴任。現在、筑波大学体育系スマートウエルネスシティ政策開発研究センター助教で、公益社団法人日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟等に関わっている。

引用文献
1) Tokuyama, M., Seino, J(. equal contribution), Sakuraba, K.,and Suzuki, Y.(2021)Possible Association of EnergyAvailability with Transferrin Saturation and Serum Ironduring Summer Camp in Male Collegiate Rugby Players.Nutrients, 13(9), 2963.
2) 徳山円香,清野隼,櫻庭景植,岡崎陽平,鈴木良雄.(2021)「大学男子ラグビー部のプレシーズンにおける夏合宿期の栄養サポート:自己決定理論を用いた体重減少を防ぐための取り組み」日本スポーツ栄養研究誌.14,108-121.
3) Mountjoy, M., Sundgot-Borgen, J., Burke, L., Carter,S., Constantini, N., Lebrun, C., Meyer, N., Sherman,R., Steffen, K., Budgett, R., et al.(2014)The IOCconsensus statement: Beyond the Female AthleteTriad—Relative Energy Deficiency in Sport (RED-S).Br. J. Sports Med. 48, 491–497.
4) Tenforde, A.S., Barrack, M.T., Nattiv, A., Fredericson,M.(2016)Parallels with the Female Athlete Triad inMale Athletes. Sports Med. 46, 171–182.
5) McGuire, A., Warrington, G., Doyle, L.(2020)Lowenergy availability in male athletes: A systematic reviewof incidence, associations, and effects. Transl. Sport.Med. 3, 173–187.
6) 農林水産省(2005) 食育基本法.https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/pdf/kihonho_28.pdf#search='%E9%A3%9F%E8%82%B2%E5%9F%BA%E6%9C%AC%E6%B3%95'(参照日 2021 年 10 月 13 日)

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