対談

馬場 利彦 JA全中専務理事

小林 元 日本協同組合連携機構(JCA) 基礎研究部部長

持続可能な農業・地域共生の未来づくりに向けて

10月29日に開催された第29回JA全国大会の決議の中でも直近の農業情勢を踏まえ、特に「次世代総点検運動」の実践について、日本協同組合連携機構(JCA)基礎研究部部長・小林元氏とJA全中専務理事・馬場 利彦の対談を行いました。

小林部長: 本日は10月29日に開催された第29回JA全国大会で決議された大会決議の「次世代総点検運動」について、JA全中の馬場専務にお話を伺います。まずは、現在の農業を取り巻く課題についてお聞きします。
 現在、米価が低迷し、大変厳しい状況になっています。10年前、米の需要量が800万tを切った時点で、馬場専務が「このままではいけない」と大変強く言われていたのを覚えています。それが今では需要量が700万tを切りそうな状況となっています。
 以前からも言われていますが、地域農業の弱体化、さらには人口減少で胃袋も小さくなり、食生活の変化もあります。われわれは地域農業をどのように守らなければならないのか、具体的に考えなければならないと思います。

馬場専務: 直近の主食用米の需要量減少は新型コロナウイルス感染拡大の影響も大きいですが、毎年、需要量が10万t程度減っていくことは周知の事実です。ただ、水田は水田として守らないといけないと思います。
 食料自給率が37%である中で、食料自給力が弱体化していることが極めて重要な課題であると思います。農地が減少し、人口も減少している状況で、食料自給力が弱体化するのは当然の流れですが、それが加速していると思います。米は余っていますが、食料自給力の観点から、この状況を変えなければならない局面に来ていると思っています。
 農業者の事業承継、農地の継承に危機感を抱いています。それは、第26回JA全国大会のテーマ「次代へつなぐ協同~協同組合の力で農業と地域を豊かに~」以降強く感じていて、いよいよ持続可能ではなくなってきているという局面であると認識しています。

小林部長: その観点から見ると、第29回JA全国大会決議では「次世代総点検運動(次世代の担い手確保に向けた取り組み)」が提起されています。一方、主食用米の中心的な産地で、平坦へいたんで条件の良い農地という恵まれた環境であっても、「このままだと作り手がいなくなる。法人組織をつくりたいが、どうしたらよいのか」と悩んでいるという話も聞きます。
 中山間地域の農業を多く見てきた私としては、「条件に恵まれた平坦な地域で作り手がいないってどういうことなのかな?」と疑問に思います。集落営農を組織していても、それぞれの構成員が1~2ha単位で水田を持ち、自らの農機を用いて栽培管理を行い、経理事務のみ一元化した枝番方式という現状から進んでいません。また、1枚1ha規模の条件が良い水田が多い法人でも、農機の共同利用などの「協同の中身」がないというのが現状です。
 地域には人もいるし、後継者もいるが、実際に住んでいる人たちは本当に強い危機感があります。農家にとって、現実的な今の問題というよりは、将来への危機感が強まっているのではないかと思います。

馬場専務: 枝番方式で営農を続けられる地域はそれでよいと思いますが、中山間地域など、根本的に人がいない地域が増えていることが問題だと思っています。
 専業農家育成、担い手育成、法人化などの取り組みが各地で進む一方で、兼業農家やその地域に住んでいる人たちは農業に関わらなくなり、農業に関心が持てなくなっていると危惧しています。その結果、次代に農業をつなげていく機会が失われてしまう。
 農業とのつながりを維持するためにも、例えば兼業農家でも水管理等の作業に出てこない人たちがいたら、その人たちを巻き込んでいくしかないのではないかと考えています。その結果として、次の担い手が育成されてくればよいと思います。
 そこで第29回JA全国大会決議では、中長期を見通して重点的に取り組む柱の一つである「持続可能な食料・農業基盤の確立」に向けた取組実践方策の中の一丁目一番地に「地域農業振興計画の策定を通じた次世代総点検運動の実践」を位置付けました。
 次世代総点検運動では、次世代組合員を「計画的に」かつ「確実に」創出することを目指しています。10年後の地域農業を見通し、新たに次世代組合員数などの数値目標を設定し、目標達成に向けた実施具体策の策定と取り組みの進捗しんちょく管理に取り組むことで、将来の地域農業の中核となる多様な新規就農者・次世代経営者に戦略的にアプローチし、次世代組合員を育成・確保していく運動です。
 また、次世代総点検運動の実践では、事業承継支援と新規就農支援が大きな柱になります。新規就農者を戦略的に確保していくためには、今いる専業農家や農業の働き手だけでなく、将来を担う「関わり手」を広げて考えていくことも重要であると考えています。
 つまり、持続可能な農業を実現し、食料自給力を上げるためにも、地域の人たちに農業に関わってもらわなければならないと思っています。
 第29回JA全国大会決議のテーマである「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」において「地域共生」とうたったのは、農業者以外の方の力も借り、その地域に住む人々と農業をつくっていくことが重要だというおもいが込められています。

小林部長: 今のお話は、地域を巻き込んで、地域農業として維持・継続していくことであると思うのですが、実際の地域を見たときにどうでしょうか?

馬場専務: もちろん専業の担い手がいて、地域農業が持続できればと思いますが、果樹にしても、畜産にしても、それだけではもう人材が足りないという状況にあると思います。JAグループとしてしっかりと担い手を育成することと併せて、農業に地域・農村を支える多様な担い手も農業振興の主人公として支援していきます。

小林部長: 米だけではなく、果樹等の選果場や、園芸産地の収穫期の労働力不足が顕著になっています。特に新型コロナウイルスの感染拡大により、改めて外国人労働力の重要性も感じました。しかし、「国民が必要とし消費する食料は、できるだけその国で生産する」という「国消国産」を考えたとき、外国人労働力に頼るのではなく、もっと国内で労働力を賄う必要もあるのではないかと思います。この点はどのように考えますか。

馬場専務: 労働力は現実的に足りていませんが、他方で、新型コロナウイルスの感染拡大により、田園回帰なり地方回帰という動きも広がっています。人々が「農業に携わりたくない」と考えているというのは、思い違いだと感じました。
 農業に対するイメージとして、垣根のようなものがあると思います。農業へ関わる際のハードルをいかに下げるかが重要であると思います。例えば、子育て世代が、子どもと一緒に働ける等をアピールすることもそうです。「食べて応援」「作って応援」「働いて応援」を広げていく。外国人労働者に頼るのではなく、少しでも地域住民や関係人口に農作業の手伝いをしてもらい、国内で農業振興の応援団をつくる。それは地域活性化も同じで、誰でも、土日だけでもいいから手伝ってもらうという考え方をしないと、持続性を保つことはできないと考えています。

小林部長: 農協改革のときに准組合員が問題になりましたが、正准組合員という話だけではなくて、地域の人、日本に住む人々みんなで次に向かって農地や農業をつないでいく。みんなでそれに協力しよう、協同しようと。そういったイメージがこの「地域共生」という言葉に含まれているということですね。

馬場専務: 地域に人はいるのだから、その中で共に考えて、共に取り組む。人と人が分野を超えて、世代を超えてつながるというのが、まさに「地域共生社会」であると思います。

小林部長: そうすると、「持続可能な農業」を進めるためには、「地域共生社会」をつくることが重要であるということですね。
 もう一つお伺いしたいことがあります。先ほども馬場専務が言われましたが、第26回JA全国大会のときに「持続可能な農業の実現」「豊かでくらしやすい地域社会の実現」「協同組合としての役割発揮」をJAの10年後の目標としました。
 この10年間を見ると、TPP や農協改革などの社会環境の変化もありましたが、特にJAの取り組みとして持続的に進めていかなければならないことは何でしょうか。

馬場専務: 第26回JA全国大会では、正組合員と准組合員に分けて初めて年齢別構成を出し、若い世代が協同活動を行わないと次代へ農業と地域をつなげないことを表現しました。
 この10年の中では、自己改革の中で、組合員との対話活動に力を入れてきましたが、改めて危機感を実感しました。農産物の販売額は、品薄単価高になって上がってきました。人が増えたわけでもないし、生産力が上がったわけでもないのに。こうした状況は長く続くわけがなく、結局その分は外国産に取って代わられました。そして、コロナの影響により需要量を失った中で、ますますガタ減りしかねない。だからこそ、本当の意味で、持続可能性というのは自分たちだけではできないのではないかと思ってきました。尚更のこと、「地域共生」としているわけです。
 令和2年3月に閣議決定した「食料・農業・農村基本計画」の中には、生産力の向上も関係人口の創出・拡大も全て入っています。しかし、地域みんなでやっていこうという政策の方向性になっているかというと、これからだと思います。「人・農地プラン」の法制化もそうですが、その地域に住む人たちも含めて、この地域の農地をどう守っていくか。今回、法律が改正されますが、そこで改めて農家の皆さんが“周りが必要” と感じるのではないかと思います。「次世代総点検運動」を進めていくにあたり、特に果樹や野菜などの生産部会は人手不足で、“どうする” というところから始まっています。それは米だって同じです。だからこそ農業者以外の人の手を借りて持続可能な仕組みをつくらなければならないと思います。また、持続可能な農業の実現というのを目指すためには、必要に応じてJAの職員も自ら営農に取り組まなければならない。さまざまな人に農業に関わってもらい、引っ張ってもらわないとならないと思います。
 さらに言えば、正准合わせた総組合員数はずっと伸びていたのが、2018年についに減少を始めました。今後は、さまざまな人に農業振興の応援団になってもらわないと組織が縮小する、という危機的な状況をJAグループとして初めて経験することになります。

小林部長: 管内における総組合員数を高めることがJAの力を強くする、と。そういうことですね。

馬場専務:そうです。農業も地域の維持も農業者だけではできないし、JAだけでもできない。農業振興の応援団の輪を広げていく。
「豊かでくらしやすい地域共生社会の実現」というと、自分たちだけのことを言っているようだけれど、そうではなく、「地域共生社会」として多様な関係者が地域社会の維持・活性化に取り組む中で、JAがその一翼として役割を果たすということが、今大会決議の目指すところだと思っていただきたいです。

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