【講演】農政ジャーナリストの会

 12月12日、東京都内で開催された「農政ジャーナリストの会」において、中家会長が「持続可能な食と地域づくりに向けて」をテーマに、わが国の食と農業を取りまく情勢や、食料安全保障を確立することの重要性について講演しました。

<テーマ>
持続可能な食と地域づくりに向けて
―わが国の食料安全保障の確立のため国民的議論を―

<概要>

  • いまなぜ食料安全保障を問うのか。わが国は戦後の食料難を経て、高度経済成長期には食べ物に困らない豊かな時代を迎え、現代に至っています。しかし、これからも同じ状況が続いていくとは言えないのではないでしょうか。食のリスクは年々増大していると感じています。
  • その背景として、まずは食料自給率・食料自給力が低迷していることが挙げられます。わが国の食料自給率は、先進国のなかでも最低水準となっています。食料自給力についても、自給力の根幹を成すものは「農地」と「人」ですが、農地面積・作付面積・耕地利用率などは減少を続けていますし、農業就業人口は毎年約10万人減少しています。農業就業人口は2025年には約120万人とおおむね半減することが予想されています。
  • このように現場の生産基盤は、徐々にではあっても確実に弱くなっています。ここ数年、農業産出額は増加していますが、その理由は農産物の品薄によって単価が高くなったことであり、生産量自体は減退しています。
  • 次に、世界中で災害・異常気象が頻発していることがあります。わが国に限っても、近年、全国で豪雪、地震、豪雨、台風などの災害が頻発しています。先般の西日本豪雨の後、愛媛県を視察しましたが、ミカンなどの永年性作物は一度被害を受けると、収穫量が元に戻るまでに何年もかかります。
  • こうした災害が発生すると、災害防止の観点から、農業の多面的機能が再評価されることもあります。水田やため池の洪水防止機能や土砂崩壊防止機能などは改めて発信するべきだと思いますし、農村に人がいることで、土地の伝統文化も継承されているということも重要な視点です。
  • 他方、世界をみると、諸外国ではいまだに食料不足が深刻であると同時に、人口は増加し続けています。わが国は小麦や大豆の大半を輸入に頼っていますが、今後も安定して輸入を続けられるか、保証はありません。実際、内閣府の調査によれば、国民の80%以上が、食料供給に不安を感じています。
  • 最後に、国際化の進展です。TPP11は今年末、日EU・EPAは来年早々に発効しますし、TAG交渉も控えています。事実として、すでに日本の農畜産物市場は閉鎖的ではありません。また、私達も全く輸入するなとは主張していません。農家が安心して農業を営めるように、しっかりとした対策を取ってほしいと主張しています。
  • 食の安全保障の確立は農業者のためだけでなく、なにより消費者の皆様のためにも必要なことです。国産の農畜産物を食べることは、日本の農家・農村を元気にし、未来の自分たちの食を守ることにつながります。
  • また、消費者の皆様から理解をいただくためには、食農教育に取り組むこともきわめて重要です。私は教育においては、知育と体育とともに、食を大事にする教育「食育」が大切だと考えています。
  • いま、世界では食や農への関心が高まっています。スイスでは憲法改正により食料安保が憲法に盛り込まれ、フランスでは食料と農業に関する国民会議が設立されました。お隣の韓国では農業の多面的機能を憲法に位置づけるべく署名運動が行われました。さらに、国連は2019年から2028年を「国際家族農業の10年」としています。
  • 消費者の皆様はもちろんのこと、様々な企業・団体も巻き込みながら、食料安全保障にかかる運動をしたい。そして、新たな食料・農業・農村基本計画に、食料安保を明記したいと考えています。なにより消費者・国民の皆様のためにも、持続可能な食と地域づくりに取り組むことが重要だと思っています。

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