農地流動化を促進 - JA紀南

農業生産維持へ

 高齢化や担い手・人手不足による耕作放棄、鳥獣被害の拡大といったマイナス的連鎖は農業振興の阻害要因になっている。JAの自己改革の柱に掲げる「農業生産の拡大」でも農地の維持が大前提となる。JA紀南は、農地の有効活用と遊休地解消を呼びかけ、貸借につなぐ農地利用調整事業を行ってきた。管内市町に農地利用集積円滑化団体の承認を受けてからは取り組みが急進し、年間約30㌶以上の貸借が進む。指導部の農地調整員への情報提供や貸し借り相談もひっきりなしだ。

30年度は180件で37.7㌶

  JA紀南は農地流動化を促進するため、平成19年に県農業公社の駐在員をJAに配置し、農地の利用調整事業を開始した。取り組みを充実させようと、24年7月には管内1市4町から農地利用集積円滑化団体の承認を受け、貸し手・借り手希望者の間に立っての利用権設定を行う事業を拡大させた。
 平成24年度は年間60件で18.8㌶だった利用権設定が、25年度には144件の33.7㌶に倍増し、ペースは落ちることなく、30年度も180件で37.7㌶となっている。
 JAが利用調整事業を始めてからの累計面積は更新を含めると300㌶近くにのぼる。地区別の面積割合は、旧田辺市が約5割を占め、とんだ地区が約2割、上富田地区・なかへち地区がそれぞれ約1割などである。
 平成26年度には「農地中間管理事業」が業務に加わった。貸し手農家が県農業公社に農地を貸し、公社が借り手農家に貸し出す形であり、農業振興地域内という条件があるが、近年の貸借の利用権設定はほとんどがこの事業にシフトしている。

JAの役割に高まる期待

 農家からは「県の農業公社を通じるので安心だ」「JAが間に入ってくれ、手続きが楽で助かった」との声が聞かれる。
 担当する生田良一農地利用調整員は「昔は貸したら返って来なくなるとの観念があったと思うが、最近は当事者同士で貸し借りを決めて手続きを依頼されることもある」と言い、JAの農地流動化の取り組みへの認識は深まっている。
 調整員の元には、高齢なので農地を貸したい、農地を借りて梅の面積を増やしたい、新規就農で農地を求めているとの相談や、耕作困難になった園地情報などが頻繁に寄せられる。調整員も契約時に、借り手に面積拡大の意向などを聞くなどし、情報を蓄えている。
 田辺市下三栖の岩見健生さん(47)は昨年11月、隣接の南高梅園40㌃を借りた。持ち主から急に「梅作りが難しくなった」との相談を受け、すぐさまJAの調整員に相談し、20年間の利用権設定を結んだという。
 岩見さんは「拡大の余地はあった。地域のことをよく知るJAの調整員が相談に乗って動いてくれるのが頼もしく、農家のメリットは大きい」と話す。
 農地の貸し借り希望や農地情報は、農地調整員のほか、支所長や営農指導員が窓口になって対応している。生田調整員は「紀南という農業地帯なのだから、若者がこの先も安心して農業をしていけるようにするのはJAの使命だ。そのため農地の貸し借りの面でも農家に役立ちたい」と話している。

JAに相談し、水路を挟んで隣接する南高梅園を借り、経営面積拡大につなげた岩見健生さん(和歌山県田辺市)

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