ミカンのおいしい季節になった。私の地元、和歌山のミカン農家は収穫作業に追われ、1年で最も忙しい時期を迎える。だが、今年は西日本豪雨や台風で被害を受けたミカン産地も多かった。手塩に掛けて育てたミカンを収穫する喜びを奪われた農家の心情を察すると、胸が痛む。
近年は地球温暖化が進んでいることに加えて今年は猛暑だったので、ミカンの味に影響するのではないかと気を揉んでいた。夏の天候次第で品質が大きく左右されるが、今年は9月に雨が多かったので、酸味は昨年に比べて少ない。あっさりとして食べやすい味に仕上がったと言われている。
調理して食べる野菜と異なり、ミカンはそのまま食べるので糖度の高さが価格に反映する。糖度10と12では、価格が全く違うので、産地では必ず糖度を計ってから出荷する。だから農家は糖度を上げることにしのぎを削る。若くてやる気のある農家は、雨が降っても根から水分を吸い上げないように、ミカンの木の根元にマルチと呼ばれるシートを敷いて雨を遮断する。手を掛けた分だけ糖度が上がり、しかも高値で取引されるのだから、大変ではあるもののやりがいがある。
地元のJA紀南では、樹上で完熟させたミカンの中でもさらに糖度が高いものを「木熟201」と名付けて出荷している。開花後樹上で201日以上かけて完熟させていることをアピールしたネーミングだが、糖度も14と高く、とろけるような食感は、わがJAの自信作。日本でもトップクラスの品質を誇っている。
子供の頃、親父に「自分でミカンを食べるのなら、ヒヨドリが突っついたのを食べろ」と教えられた。言われたとおりにしていたら、どれも本当に甘くてうまい。そこでヒヨドリが好んでついばむミカンをじっくり観察すると、ポイントが3つあることに気付いた。まずどちらかと言えば小粒であること。次に細い軸になっていること。最後はミカンの肌のきめが細かいこと。この三拍子がそろっていれば、間違いなくおいしいミカンに当たる。
ところで皆さんはミカンを食べる時、どのように皮をむくだろうか。おそらく、ほとんどがヘタの反対側のお尻からむいているだろうが、ヘタからむくのが正解。お尻からだと、ミカンの白い筋がうまく取れないが、ヘタからだと皮と一緒にきれいにとれる。皮をむくのが面倒だと言っている方にこそ、試してほしい。食べるのが楽しくなること請け合いだ。
(「週刊新潮」平成30年12月20日号)
高級ブランド「木熟みかん」は、木の周囲を白い反射シートで覆うなど、徹底した栽培管理から生まれる。(写真提供:JA紀南)