第38回 梅干し作りで夏休み返上

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 今年もお盆が近づいてきた。故郷でお盆を過ごす方も多いだろう。私も平日は東京にいることが多く、休日だけ地元の和歌山県田辺市に帰っているので、お盆は自宅で過ごす予定だ。日本一の梅産地であるわが故郷の梅農家はこの時期、梅干し用に塩漬けした梅を干す作業に追われる。

 梅干しにする完熟梅は6月中旬から7月上旬に収穫する。樹上で完熟し、自然に落果した梅を傷めないようにするため、農家は畑に収穫用のネットを敷いている。傾斜地に植えられている梅の木から落ちた実は、ネットの上を

転がって一か所に集まる。この梅をコンテナごと30分ほど水槽に浸ける。まれに虫が梅の実に潜んでいることがあるので、追い出すため水に浸けるのだ。その後、洗浄し階級別に選別して、塩分20%で1カ月ほど漬け込む。

骨が折れる息の長い作業

 梅雨が明けたら、いよいよ土用干しだ。ザラと呼ばれる大きな容器に広げて三日三晩干す。その間、農家は梅をひっくり返して乾燥度合いを一定にする。大きさや日光、風によって乾燥度合いが異なるので、器具で水分量を測定して品質を保っている。ここ数年、猛暑の影響を受けて、三日三晩干すと乾燥し過ぎだったり、外はちょうど良くても中は水分が多かったり、従来通りの干し方では品質管理が難しくなっていることを感じる。

 天日干しの後は再び選別して、誰が作ったものか分かるように生産者の名前と住所を記したシールを貼った10キロ入りプラスチック容器に詰める。完熟した南高梅は皮が薄くて軟らかいので傷がつきやすく、詰める時に皮が破れたら商品価値を失ってしまう。農家は細心の注意を払って汗をかきながら、一粒一粒、全て手作業で詰めるのだ。

 プラスチック容器に詰めた干し梅はJAや加工業者に買われ、加工場で一度洗浄してから調味液に漬けられる。減塩や低塩、はちみつ、鰹節など味を調え、ようやく製品として出荷される。このように梅干しは栽培、収穫、漬け込み、土用干しまで農家の手間と時間をかけて出来上がる。梅干し作りは息の長い仕事なのだ。

 保存性が高く、健康食品としても重宝されてきた梅干しは、夏場に食欲の落ちた体を助けてくれる力が詰まっている。そして何より、1年がかりで手塩に掛けて梅を育ててきた農家の思いが宿っている。

 今年も厳しい暑さが続きそうだ。熱中症予防の塩分補給にも梅干しは打ってつけ。皆さんにも梅干しを食べて元気に残暑を乗り切ってほしい。

(「週刊新潮」令和元年8月14日号)

梅干しにする完熟梅は、農家が畑にネットを敷いて、一つ一つ丁寧に収穫していく。(写真提供:JA紀南)

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