1960年ころから始まった高度経済成長期には農村から都市へ人口が流出し、広大な農地が住宅地へと変貌を遂げた。しかし、1999年に食料・農業・農村基本法が制定されたことを受けて、都市農業を守る機運が高まってきたように思う。こうした機運に弾みをつけたのが2015年に成立した都市農業振興基本法だ。それまでは市街地にある農地は宅地化すべきものとされてきたが、人口減少が進む中で開発圧力が低下し、良好な都市環境の形成に資するものとして政策の転換が図られた。最近では市民農園にサービスを充実させた体験型農園も子育て世代に人気が高く、農業への関心を持ってもらう絶好の機会になる。都市農業を営む農業者の悩みの種となる農機の稼働音や消毒の際などに寄せられる住民からの苦情や誤解も、農業体験で理解が得られるかもしれない。
おりしも、東京23区内にある農地の約4割(約200ヘクタール)を占める練馬区は、11月29日から3日間の日程で「世界都市農業サミット」を開催する。ニューヨーク、ロンドン、ジャカルタ、ソウル、トロントから農業者や研究者、行政担当者らを招き、練馬の都市農業の魅力と可能性を世界に発信する。各都市の都市農業を紹介する国際会議や伝統野菜「練馬大根」の引っこ抜き競技大会、マルシェなど多彩なイベントが用意されている。イベントを契機に都市農業の重要性が国内外で認識されることを願っている。
(「週刊新潮」令和元年11月21日号)