第46回 日本を育んだ米のルーツ

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 今年も新米の時期だが、消費者の皆さんに喜んでいただけただろうか。農家にとって収穫の喜びはもちろん、食べた人を笑顔にできたらこれほど幸せなことはない。しかし、残念なことに九州北部豪雨や台風15、19、21号などで甚大な被害が発生し、たくさんの尊い命が奪われた。お亡くなりになった方々の御冥福をお祈りするとともに、全ての被災者の皆様に心からお見舞いを申し上げたい。

世界共通の持続可能な営み

 さて、今回のテーマは米である。日本人の主食・米のルーツは、中国南部の山岳地帯だとされている。米は日本で多く栽培されている短粒のジャポニカ種と、長粒のインディカ種に大きく分けられ、ここから北ではジャポニカ種が、南ではインディカ種がそれぞれ世界へと広まったという。2012年に日本が主導的役割を果たし、イネのゲノム(遺伝情報)解析が行われた。その結果、中国南部を流れる珠江の流域がルーツだと判明したという報告がある。

 日本には約3000年前の縄文時代後期に伝来したと言われる。朝鮮半島か中国南部から対馬海流や黒潮に乗って伝わったとされるが、種が日本人の祖先とともに海を渡って来たことに悠久の歴史を感じる。

 伝来以来、現在に至るまで日本全国で米が栽培されている。同じ場所の水田で長く栽培し続けられるのは、水を張っているために連作障害が起きないからだ。川から流れ込む水は山からの養分を運び、塩分など稲の成長に害を及ぼす成分を洗い流すばかりか、病害虫を酸欠状態にして死滅させるなど様々な働きがある。世界遺産にもなっているフィリピンのコルディリェーラの棚田群は2000年かけて作られたというし、日本にも数百年続く棚田がある。

 アジアを中心に世界中で年間約7.7億トンを生産、アフリカや南米などでも栽培され、世界の約5割の人々の主食になっている。日本でもすっかりお馴染みの「ビーフン」は、うるち米の米粉を麵にしているが、中国南部や東南アジアで常食され、今では小麦アレルギーに対応できる麵食品として注目を集めている。

 11月には新天皇が五穀豊穣と国民の安寧を祈る「大嘗祭」の中心的な儀式として「大嘗宮の儀」と「大饗の儀」が厳かに行われた。儀式では、天皇陛下が栃木県と京都府の斎田で収穫された米などを天照大神と全ての神々に供えた上で、ご自身も召し上がった。こうした皇室行事を拝見すると、米が日本の文化の原点であることを改めて感慨深く思う。

(「週刊新潮」令和元年12月19日号)

静岡県浜松市の山間部にある久留女木(くるめき)の棚田。起源は平安時代にさかのぼる。扇状に約800枚の棚田が並ぶ。

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