第4回 これでいいのか、日本の食

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 先日、地元・和歌山のテレビとラジオの取材を受けた。その中で「2018年を漢字一文字で表してほしい」と求められたので、あえて「食」と答えた。それは日本の「食料安全保障」を考え直さなければならない時に来ていると、痛切に感じているからだ。

 2016年の日本の食料自給率は38%で、前年度を1ポイント下回った。先進国の中で最低の水準で、簡単に言えば我々の身体の6割強は外国産の食料でできていることになる。JAグループを挙げて食料自給率向上に取り組んでいるだけに非常に残念に思う。

 例えば小麦の場合、日本は多くをアメリカやカナダ、オーストラリアから輸入している。国内で生産しているのはわずか12%に過ぎない。

 もしも世界的な異常気象で、干ばつや洪水などの自然災害が続いて産地が壊滅的な被害を受けたらどうなるか。日本でも台風で北海道のジャガイモ産地が大打撃を受けた際、店頭からポテトチップスが姿を消したのは記憶に新しいが、凶作によって食料の生産量が減ればどこの国だって「自国ファースト」になるのは当たり前だ。どんなにお金を出しても、海外から食料を輸入できなくなるリスクは次第に大きくなっている。「食料が輸入できなくなったから、農家の皆さんたくさん作って」と言われても、これほど農業が疲弊して生産力が低下する中で、食料増産への要望に応えることは難しい。

食料安全保障を憲法に

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)が2013年に「和食」を無形文化遺産に登録することを決めたことなど、世界中で和食への評価が高まっている。しかし、肝心の日本で米の消費量が減るなど、和食離れが進む。日本の食を今一度考え、国産の農畜産物を食べる運動を展開したい。全ての人に共通する「食」を消費者の皆さんと一緒に考えたいと思う。

 スイスでは昨年9月、「食料安全保障の大切さ」を盛り込んだ憲法改正法案が国民投票で8割近い賛成を得て可決され、主要国で初めて食料安全保障が憲法で明記されることになった。スイスの食料自給率は50%台を維持している。日本よりはるかに高い自給率を誇るスイスでも食料安全保障について国民が真剣に考えている。

 お隣の韓国も農業の多面的機能を公益価値として憲法に盛り込むことを目指した署名運動を展開し、目標の1000万人を突破した。

 我々もスイスや韓国に見習うべきではないだろうか。

(「週刊新潮」平成30年2月14日号)

JAグループでは国産・地元産と日本農業のファンになってもらう「みんなのよい食プロジェクト」を展開中。

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