第5回 原点に立ち返る

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 我々JAグループは農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域の活性化に向けて、自己改革の完遂を目指している。

 昨年12月、全国6会場で改革を進めるためのフォーラムを開いた。日本の農業・農村を取り巻く環境が目まぐるしく変わる中で、JAグループはその変化に対応し、日本農業の将来展望を開くため、全国に数多くある優良事例に学び、改革を進めていかなければならない。フォーラムの各会場では先進的に取り組んでいるJAがそれぞれの実践を報告し、JAグループはどうあるべきかを考え、議論を重ねた。

 こうした全国の優良事例は、JAグループの財産だ。大切な財産を共有できることは、グループの強みでもある。一方で、他の業界の方と話していて共通する課題が人材育成だ。フォーラムでも人材育成の重要性を挙げる声が多かった。

 所得向上のためには、例えば肥料や農薬、資材などの生産コストを下げなければならず、他社との価格競争にさらされる。もちろん、身を削ってでも取り組まなければならないが、私が申し上げたいのは価格競争ではなく、人材競争に勝つ努力を重ねてほしいということだ。

一人の百歩より、百人の一歩

 以前、JAの店舗で毎日、買い物をする女性組合員から手紙をいただいた。その方は精算の際、毎回決まった女性スタッフが担当するレジの列に並んだという。女性スタッフの退職を知ったその方は「私はレジで、いつも彼女の言葉と笑顔に癒されていました。退職にあたりJAから何か御礼を差しあげてくれませんか」と感謝の気持ちを手紙にしたためてきた。

 組合員を思いやる女性スタッフの真心のサービスがあったから、毎日JAに足を運んでくれたのだろう。このように「あの職員がいるからJAを利用する」と評価される、ホスピタリティ能力のある人材が求められているのだと思う。

 JAの役職員は組合員のことを最優先に考えなければならない。組合員から信頼される役職員になれば、価格や金利という物差しではない価値観でJAを選んでもらえるはずだ。そうなればJAへの結集力も高まり、地域における存在感もさらに増す。人と人が結びついてできた協同組合だから、やはり起点は「人」だ。

 財産となる「人財」を育て、ピンチをチャンスに変えて乗り越えていく。「一人の百歩より、百人の一歩」。これこそが協同組合の原点なのだ。

(「週刊新潮」平成30年3月1日号)

フォーラムでは様々な優良事例が紹介された。

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