第9回 毎日、もう一口多く

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 桜前線が北上し、今年も早いところでは田植えが始まった。田植えはこれから本番を迎えるが、皆さんは国民一人当たり年間でどれくらいの米を食べているか、ご存じだろうか。残念ながら、2016年は54.4キロと過去最低を更新した。1965年は111.7キロだったので、半世紀で半分近くまで消費量が減ったことになる。

 米消費量の減少に伴って食料自給率も低下した。日本は現在、38%に留まり、先進国の中で最低だ。アメリカが130%、イギリスは63%、お隣の韓国でも50%を維持している。このような食料自給率の低下原因のひとつには、日本人の食生活の変化が挙げられる。

 米消費が多かった1965年の食料自給率は73%もあった。当時は主食の米を中心に野菜や魚などを食べる日本型食生活だった。しかし、食の洋風化が進んだことによって国内で大量に生産できる米の消費が減った。また、米を作るのに適した水田も、他の作物の栽培にすぐに対応できるわけではない。輸出国の戦略もあり、米以外の穀物を中心に、輸入が増えた経緯もある。私は日本型食生活が日本人にもっとも合った食生活だと思うが、特に若い世代で米離れが進んでいる。最近、炭水化物抜きダイエットが流行っていると聞くが、バランスの悪い食事はかえって不健康なのではないか。こうして食生活の変化は「食」や「農」の構造をも変化させ、食料自給率の低下を招いたといわれている。

食料自給率向上へのアクション

 国連は2050年に世界人口が98億人に到達すると見通している。爆発的な人口増加の一方で毎年、地球上では日本の耕地面積に匹敵する耕地が砂漠化などによって消失しているとされ、世界的な食糧不足に陥る危険が迫る。日本のように食料を海外に依存していると、異常気象などで輸入できなくなった時にどうなるか。国民一人一人が「食」を自分の問題として捉え、行動を起こす時に来ていると思う。

 では食料自給率を上げるには、どうすればいいか。旬のものや国産・地元産のものを食べたり、食べ残しを減らしたりするほかに、農水省は国民一人がご飯を毎日もう一口多く、パンなら米粉パンを月にもう6枚食べると、食料自給率が1%向上すると試算している。

 そういえば、現在、フィギュアスケート・男子シングルの世界チャンピオンに君臨する羽生結弦選手も、競技前に必ずご飯を食べることを明かしている。怪我を克服し、世界中を魅了した羽生選手のパワーの源には、ご飯があるのだ。

(「週刊新潮」平成30年5月3日・5月10日ゴールデンウィーク特大号)

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