第12回 世界中の農家のために

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 今年1月、私はJA全中の会長に就任してから初めてアメリカを訪ねた。農業団体の幹部と農業や貿易交渉、協同組合などを巡って意見交換をしてきたが、かねてから直接会って意見を交わし、信頼関係を築きたいと思っていたので、非常に有意義な訪米となった。

 アメリカの農業と聞くと、大規模な経営をイメージされる方が多いだろうが、家族経営をしている小規模な農家も数多く存在している。こうした農家が加盟している農業団体のナショナル・ファーマーズ・ユニオンでは副会長にお会いし、後継者不足という同じ悩みを抱えていることを知った。国は違えど農業の大切さを訴えていく必要性について深く議論ができた。

 私と同じ国際協同組合同盟(ICA)理事の全米農村電気協同組合協会の副会長とは、協同組合の価値を世界に認識してもらう活動を強化していく考えで一致した。アメリカもヨーロッパほど国民に協同組合の重要性が認知されていないようで、状況は日本と一緒だった。

多様な農業の共存

 どの国にとっても農業は最重要産業の一つで、独立した国である以上、自国民の食料はできる限り自国で賄おうという姿勢がある。JAグループなどの農業団体は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)など国際貿易交渉に対して全面的に反対すると誤解をされているようだ。しかし、我々は否定しているのではない。農業分野も含め、公平に利益がある場合に検討すべきだと主張してきた。日本に限らず世界において「多様な農業の共存」が認められるべきなのだ。

 この考え方に基づき、JAグループは古くから世界の農業団体と交流を続け、農業分野での国際協力などを手掛けている。

 1963年に設立されたアジア農協振興機関(IDACA)は、アジア地域を中心とする政府や農協関係者に訪日研修を実施したり、開発協力事業を行ったりしてきた。研修事業はこれまでに131の国・地域から約6500人を受け入れてきた。修了者には各国の政府高官や農協組織のリーダーとして活躍している方も多く、感謝の言葉をいただいている。ちなみに、研修参加者の直近10年の上位国は、マレーシア、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジアの順となっている(平成30年5月末現在)。

 農業は、人の命を育む産業だ。世界中の農家が安心して農業を営み、快適な生活を送れるよう、私達もサポートしている。

(「週刊新潮」平成30年6月21日 早苗月増大号)

JAの流通センターを見学する研修生(写真提供:アジア農協振興機関)

一覧に戻る
ページトップへ