第16回 コミュニケーション釣ーる

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 いよいよ夏本番。夏休みを満喫する子供たちの歓声があちこちから聞こえてくる。大人にとっても夏休みは楽しみであり、心身ともにリフレッシュできる絶好の機会だ。

 私事で恐縮だが、釣りが趣味だ。全国農業協同組合中央会(JA全中)の会長に就任してから、釣りをする時間がほとんど無くなってしまったが、和歌山県田辺市というのどかな農村で生まれ育ったので、子供の頃から川で釣りをして遊んだ。本格的に始めたのは、地元の農協職員になってからだ。

 私が勤めたJA紀南では毎年、9~11月にかけて組合員同士の親睦を図る磯釣り大会を支所単位で開いていた。私も職員として参加していた。釣りの醍醐味は何といっても、魚がかかった瞬間。竿を伝って手に届くコンコンという感触がたまらない。日頃のストレスが一気に解消される。

 磯釣り大会は今でもJA紀南恒例のイベントだ。釣った魚の総重量または魚の種類別に1匹当たりの重さを競い、上位入賞者には景品を贈る。女性の部も設け、男女を問わず組合員にとても好評だ。職員も磯釣り大会に参加することで組合員との共通の話題ができる。普段あまり話す機会がない組合員との距離が縮まり、業務がスムーズに運ぶことも多い。釣りはまさにコミュニケーションツールになっている。

仕事に通じる極意

 釣りは奥が深い。釣る魚の種類によって竿、リール、仕掛けなど道具が全て異なるし、釣り方も違う。ただ、釣り針に餌をつけて糸を垂らすだけでは魚は釣れない。船釣りだと、今は船に魚群探知機が搭載されているので魚のいる場所がすぐに分かるが、波止場や磯などで釣る場合、自分で見つけなければならない。魚が釣れるポイントを見極めるには、海底の状況や魚の習性、潮の流れなど、様々な情報を集めて判断することが欠かせない。

 こうしたポイントの見極めは、仕事とも相通ずるものがあると私は思っている。日頃からアンテナを高く張って情報を収集し、冷静に分析した上で業務に活かす。釣りから学んだことだ。

 7、8年前、体長1メートル、重さ10キロのキハダマグロを釣った。自分ではさばけなかったので魚屋にお願いしたが、味は格別だった。地元で取れた新鮮な食材は、食べた人を笑顔にしてくれる。この夏休み、皆さんが行く先々で地元の食を満喫していただけることを願っている。

(「週刊新潮」平成30年8月16日・8月23日 夏季特大号)

磯釣り大会での釣魚の計測には、真剣な眼差しが注がれる。(写真提供:JA紀南)

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