第19回 農高旋風は甲子園のみならず

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 この夏、日本列島は例年に増して自然災害に見舞われた。西日本豪雨、台風21号に続き、北海道胆振東部地震で、たくさんの尊い命が犠牲になった。亡くなられた方々やご遺族にお悔やみを申し上げるとともに、被災された皆様に心からお見舞いを申し上げたい。そして1日も早い復旧・復興を願い、JAグループとしても組織を挙げて支援していきたい。

 列島を襲った惨事に言葉を失う一方で、心温まる話題もあった。記念すべき第100回全国高等学校野球選手権大会での秋田県立金足農業高校の快進撃だ。居並ぶ強豪校を次々と倒し、決勝まで勝ち進んだ金足農の選手には、全国の農業高校生だけでなく、我々農業関係者も大変勇気づけられた。また、金足農の活躍は農業高校が注目されるきっかけにもなった。

 農業高校は現在、全国に126校あり、農業科を置いている高校も含めると303校が存在する(2017年5月現在)。授業には農業実習があり、米、野菜、果樹、畜産など実習内容は幅広い。生徒が自ら育てた農畜産物を使った食品加工も学べるため、最近は女子生徒も数多く在籍している。

 私の地元にある和歌山県立南部(みなべ)高校には生産技術科と園芸科がある。園芸科の教師と生徒たちが梅の優良品種を選定しようと、1950年から5年がかかりで調査研究した末に選び抜いたのが、皆さんよくご存じの「南高梅(なんこううめ)」。60年以上たっても優良品種として栽培され続けていることを考えると、農業高校の存在価値の大きさがわかる。卒業生は後継者として就農したり、JAに就職したり、中には農業大学校に進学するなど、農業に携わる人生を歩んでいる。

熱戦と快進撃に期待

 農業高校で学ぶ価値は、これだけではない。昔は農家の長男が農業高校に進んで後を継ぐのが多かったが、今は農家の子弟でなくても農業高校に進んでいる。農業を知らない生徒たちが農業実習で作物を育てたり、家畜の飼育を経験したりすると、農業の素晴らしさはもちろん、厳しさについて身をもって理解することができる。

 農業高校を卒業して就農する生徒は全体の5%に過ぎない。しかし、専門知識と技術を身に付けた卒業生は就農せずとも、農業に思い入れのある社会人(農業関係人口)になってくれるだろう。農業の応援団となる人材を輩出することは、日本の農業にとって大きな力になる。勉強に部活動に一生懸命取り組んでいる農高生を、心から応援している。

(「週刊新潮」平成30年10月4日号)

梅干しに最適な品種「南高梅」は、南部高校の教師と生徒たちのタッグから誕生した。(写真提供:JA紀南)

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