第20回 気候変動と日本の食卓

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 猛烈に暑かった今年の夏。気象庁によると7月の東日本の月間平均気温は平年を2.8度上回り、1946年の統計開始以来、最も高かったという。私は和歌山県田辺市で長年、自然を相手に仕事をしてきたが、ここ数年は温暖化が加速度的に進んでいることを実感する。

 異常気象は日本だけではない。国連の世界気象機関(WMO)も今夏は世界的に猛暑だったと発表している。米国・カリフォルニア州で52度の気温を観測し、スウェーデンでは森林火災も多発した。このような世界的な猛暑の背景には、地球規模の気候変動があると指摘されている。自然の影響を受けやすい農業にとって気候変動は避けられない大きな問題だ。実際、農業者団体の国際会議では、気候変動へどのように立ち向かうかがテーマとなっている。世界農業者機構(WFO)の2018年総会のテーマも「農業者による気候変動への対応に向けて」だった。

共に考えるこれからの食と農

 わが国は食料輸入大国だ。2016年の農林水産物の輸入額は8兆5000億円。これは国内の農業総産出額とほぼ同じだ。こうした実態を裏付けているのが、38%という低い食料自給率。6割以上を外国産で賄っているのが現状だ。

 気候変動によって世界の食料需給がひっ迫したら、これまで通りに安定的に輸入できる保障は何もない。しかも世界人口は爆発的に増加している。経済力に任せて世界中から食料を買える時代ではなくなりつつあるのだ。

 話題を国内に戻そう。今年の夏、メディアは猛暑の影響で野菜が高騰したと報じた。しかし、価格が高いからといって農家の収入が増えるわけではない。野菜が不足して高騰するということは、多くの農家が種をまいても収穫できなかったということなのだ。消費者の皆さんには、そうした視点も持っていただけたら幸いだ。

 また、生産現場では農業に携わる人が減り、高齢化が加速している。1985年の農業就業人口は542万人だったのに対し、2015年は209万人。この30年で6割も減った。基幹的農業従事者の平均年齢は67歳で、わずか20年で約7歳上がった。いかに担い手不足で高齢化が進んでいるか、お分かりいただけただろうか。

 地球規模の気候変動と生産基盤の脆弱化は、私たちの食を脅かす。食はまさに安全保障。わが国の食と農のこれからを、消費者の皆さんと共に考え、行動したい。

(「週刊新潮」平成30年10月18日号)

農林水産省の農林業センサスを基に作成

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