第21回 苦労が実る秋

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 あれほど暑かった夏が終わり、すっかり秋めいてきた。秋と言えば「食欲の秋」、「読書の秋」、「スポーツの秋」など、人それぞれにイメージするものがあるだろうが、我々JAグループにとっては何といっても「実りの秋」。収穫期を迎える秋は農家にとって最も忙しい反面、1年の苦労が実る喜びを感じられる季節でもある。

 和歌山の私の地元では、秋はミカンの収穫が主だが、私の家では子供の頃、米を作っていたので、秋は稲刈りに追われていた。今は機械で刈り取るが、その頃は全て手刈り。大変だっただけに、米の収穫ができる喜びはひとしおだった。

 米を主食とする日本人の、しかも農家の倅として生まれたので、1年分の主食を確保できたということには特別な思いがあった。戦後の食糧難が続く時代を経験したこともあり、この先1年は食べ物に困らないという保障は大きかったのだ。今年は多くの自然災害に見舞われ、収穫の喜びを味わうことができない方もいらっしゃる。誠に残念であり、改めて食料安全保障の必要性を痛感している。

秋の祭りは盛りだくさん

 収穫作業に追われる中、農村では各地で秋祭りが行われる。五穀豊穣に感謝する秋祭りも、やはり農家には特別なものだ。昔は奉納相撲といって子供たちがお宮の境内の土俵で相撲をとったし、学校の授業にも相撲の時間があった。奉納相撲は子供たちだけでなく、老若男女問わず楽しみにしていた。祭りの日は学校も休みになり、地区を挙げて祭りを盛り上げ、楽しんだものだ。

 収穫の喜びを地域の方々と分かち合おうと、全国のJAでもJA祭りが行われる。農協祭りとか農業祭など、呼び方はいろいろあるが、実りに感謝して地域の新鮮な農畜産物を販売したり、餅つきをしたり、その地域ならではの趣向を凝らしたイベントが行われている。家族連れにも大変喜ばれている。

 私の地元、JA紀南の管内で催される祭りの中には、水産業も含めた農林水産業の祭りとして行われるところもある。第一次産業全体の祭りで、地域の恵みが手頃な価格で売られることもあり、来場者に大人気だ。この祭りは毎年、餅まきでフィナーレを飾る。祭りが最も盛り上がるときであり、地域の方々の弾ける笑顔を間近で見られるので、我々の励みにもつながっている。

 ご興味があれば、ぜひお近くのJAの祭りをチェックして足を運んでいただきたい。我々と一緒に「実りの秋」「食欲の秋」を満喫してみませんか。

(「週刊新潮」平成30年11月7日号)

和歌山県田辺市恒例の「農林水産業まつり」。フィナーレの餅まきでは、老若男女を問わず、歓声が起きる。(写真提供:JA紀南)

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