第27回 大海に漕ぎ出す時

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 新年が始まったばかりと思いきや、早いもので2月が始まる。

 既にご存知の方も多いだろうが、1日に欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が発効する。これにより、双方の貿易品目のうち農林水産物の約82%の関税が撤廃される。品目別に見ると、EU産の乳製品やワインなどは国産品との競合が特に予想されている。昨年12月30日に発効したアメリカを除く11カ国による環太平洋連携協定の新協定(TPP11)に続き、大きな貿易協定が動き出し、日本の農業はかつてない市場開放に直面する。

 JAグループは、日本が貿易立国という中で、貿易交渉そのものに反対しているわけではないが、国内の農業者に不利益が生じないよう万全な対策を求めてきた。そして、我々はEU諸国と農業の形態や多面的機能への考え方などで共通する認識も多く、これまで農業団体間でも交流を深めてきた。

日本らしさが醸す技

 確かにEU産の乳製品やワインには長い歴史があり、その品質の高さは世界的にも評価されている。しかし、だからといって悲観はしていない。日本の農畜産物や食品も品質の高さでは負けない自信があるからだ。例えば北海道では、欧州並みに様々なチーズが作られている。ゴーダやラクレットなどの有名どころから、カチョカバロなどの珍しいものまで、多種多様な製品で市場を豊かにしている。これらの特徴はEU産と異なり、日本人好みの味に仕上げていることだ。

 ワインだって負けてはいない。山梨や長野では、原料のブドウ栽培からこだわったワイン造りに懸命に取り組んでいる。世界中で和食の人気が高まっている現状からすると、和食に合う高品質の日本ワインも世界に広まる可能性を秘めているのではないか。

 もちろんEPAによる農業分野への影響には万全な対策が欠かせないし、国内への安定供給も重要だが、それだけでなく、日本産の良さを国外にも積極的に発信していかねばならない。EUには国はもちろん、地域ごとに数多くの名産品があり、どれも生産者が誇りを持って生産している。そして、こうした取り組みを国民が理解し、積極的に買い支えている。

 皆さんにもぜひ、日本の農家が丹精を込めて作った日本ワインと国産チーズを召し上がってほしい。

(「週刊新潮」平成31年2月7日号)

EU産に負けない品質を誇る日本のチーズとワイン。写真はJAふえふき(山梨県)のワインとJAあしょろ、JA中標津(北海道)のチーズ。

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