第28回 スマート農業時代、始まる

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 昨秋から正月まで放映されたTBS系の連続ドラマ「下町ロケット」で、無人トラクターの開発が取り上げられ、話題になった。ご覧になった方はお分かりだろうが、後継者や労働力不足が深刻化する中で、先端技術を活用した「スマート農業」の実用化は解決策の一つになるとして期待がかかっている。

 車の自動運転や人口知能(AI)を搭載してサービスを提供するロボットなどの技術革新は、目を見張るものがある。農業分野でもドローン(小型無人飛行機)や水田センサー、除草ロボットなど、AIを利用するスマート農業の実用化が始まり、我々JAグループもこうした最新技術の導入を進めている。

農業の未来を切り拓く技術

 岐阜県のJAにしみのは、稲作農家を対象に衛生利用測位システム(GPS)を使って最適な作業経路を計算し、自動で耕したり、代かきができたりする無人トラクターや農業用ドローンの実演会を開き、スマート農業の提案を始めている。広島県のJA広島中央もドローンを導入し、種もみを直接田んぼに蒔く栽培の実証実験を行っているが、生育も収穫量も順調だった。

 畜産経営ではJAグループ佐賀が、スマートフォンなどのタブレット端末で牛の健康状態や発情・分娩の兆候などを管理・共有できるクラウド型牛群管理システムを導入した。これまでに40戸近い農家が経営改善に役立てている。

 野菜では北海道のJA鹿追町が、AIを搭載した自動収穫機を使いキャベツやタマネギの形状を判別して収穫するだけでなく、収穫後にコンテナに積んだ後、トラックまで自動フォークリフトで運ぶという実証試験を産官学で連携して始めた。2026年度までの実用化を目指しており、導入によって収益性を2倍にするのが目標だという。

 スマート農業は、農作業事故のリスクを減らせることにもつながる。ここ数年は減少傾向にあるものの、農作業中の死亡事故の発生件数は未だ300件を超えている。痛ましい事故や農家の身体的負担の削減も可能になる自動化は、省力化や経営改善と合わせて農業の未来を照らす光となるだろう。

 すでに導入が開始したり、具体化したりしている地域に共通するのは、平坦地で大規模化しやすいという点だ。今後、さらに広めていくには中山間地への対策やコスト面での課題の解決が求められる。誰もが、どこでも安心して使える技術革新に期待したい。

(「週刊新潮」平成31年2月21日号)

昨年9月、JAにしみので行われた先端農業技術の実演会では、無人トラクターの自動運転も紹介。参加者からは精度の高さに驚きの声が上がった。

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