第30回 災害の教訓を活かす

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 2011年3月11日。当時、私は和歌山県のJA紀南の組合長を務めていた。体調を崩して自宅で休養していた私は、テレビで参議院決算委員会の中継を見ていた。突然、議場が大きく揺れてテレビの画面が真っ暗になった。次に画面に映ったのは津波の映像。何が起こったのか理解するのに時間がかかった。あの衝撃的な映像は、今でも脳裏に生々しく焼き付いている。

 あの日から8年が過ぎた。JAグループは発生直後から組織力を生かし、支援活動に総力を挙げてきた。JA厚生連の災害派遣医療チーム(DMAT)やJA共済連の損害査定要員が全国から駆けつけたり、JA役職員らで構成するJAグループ支援隊が被災した家屋や農地の復旧・復興作業に従事したりした。支援隊の数は延べ約1万6000人に上る。

 被災地のJA役職員も肉親や家を失いながらも地域の組合員のために、炊き出しや貯金緊急払い戻しなどに奔走した。相互扶助の精神があったからこそ、多くの人々を動かしたのだろう。グループの一員として誇りに思う。

JAならではの防災対策

 東日本大震災以降も大規模な災害が続いているが、JAグループは地域のインフラとしての一翼を担うべく、防災対策に取り組んでいる。すでに200を超えるJAが328の市町村と連携協定を結び、災害に備えている。

 例えば東京のJAは地元の自治体と連携し、防災協力農地を設定している。農地は倒壊の恐れがある建物がなく、井戸や水道が利用できるほか、ビニールハウスでは雨風をしのぐ緊急避難所として有効活用ができる。都市部の農地は災害時、様々な機能を発揮して地域住民を助けてくれるのだ。また、埼玉では、県内全てのJAが市町村等との防災協定書を締結している。応急生活物資の提供に加えて、JA施設の提供など、多岐にわたって協力している。

 地域の特産を活かし、非常食の開発に乗り出したJAもある。大阪のJA北大阪は地場産の米、小豆、はとむぎを原料に缶入り飲料「農協の飲めるごはん」を販売している。5年の長期保存が可能で、アレルギー物質を含む特定原材料等の27 品目は使わずに製造。子供からお年寄りまで誰もが飲みやすいようにココア、梅・こんぶ、シナモンと3種類の風味をそろえた。シナモン風味は京都の銘菓・生八つ橋に似た味わいだ。

 我々は災害の教訓を活かし、地域に根差す組織だからこそ実行できる防災対策にこれからも取り組んでいきたい。

(「週刊新潮」平成31年4月4日号)

「農協の飲めるごはん」は昨年8月から発売。1缶245グラムで260円(税別)。加熱・加水いらずで栄養分と水分を同時に補給できる。

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