むろん、農業に関わる行事は皇室だけにとどまらない。古来、農業は、全国津々浦々で行われる祭りごとと密接に関わってきた。
わが故郷の和歌山県田辺市の伊作田(いさいだ)稲荷神社では、2月に粥占神事が、5月に御田植神事が催される。また長野八幡神社では、11月3日に住吉踊が行われ、豊作を祝う。それらの祭りを伝承してきた集落は、混住化が進み、少子高齢化と相俟って、祭りを継承するのが次第に困難になってきているのも事実だ。しかし、これらの伝統行事は、地域で先人から脈々と受け継がれてきた文化。絶やしてしまうのは、でき得る限り、避けたいものである。
祭りとは違うが、私の地元では、古くから住民参加で行う共同作業がある。水路の草刈りや農道の整備など春・秋に行う「道普請(環境整備)」と、2月に行う「土手焼き(河川愛護活動)」だ。私も毎年、参加しているが、改めて実感したのが農家の減少と高齢化。「いつまで頑張れるのか」という声も聞かれ、このままではお金を出して業者にお願いすることにもなりかねない。しかし、結果は同じでも、地域の住民が総出で汗を流し、地域を守ることには大きな意義がある。これにより地域のコミュニティが守られるからだ。郷土愛もそこから生まれるのではないだろうか。
経済合理性だけで片付けることができないのが農村の営みであり、価値。新しい時代になっても、大嘗祭や天皇陛下の田植えや稲刈りが引き継がれるように、JAグループも、農村とその文化を盛りあげるべく、全力でお手伝いをしていきたい。
(「週刊新潮」令和元年5月16日号)