第35回 「なつぞら」と共同販売

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 NHKで放送中の連続テレビ小説「なつぞら」は、北海道・十勝地方を舞台に物語が始まった。広瀬すずさん演じる戦災孤児の主人公なつは、父と戦友だった柴田剛男に連れられて十勝で酪農を営む柴田家で暮らすことになる。ご覧になっている方はお分かりだろうが、藤木直人さんが演じる剛男は農協職員という設定。そのようなこともあり、私も楽しみにドラマを拝見している。

 ドラマの前半で描かれた昭和30年代の日本は、高度経済成長期だ。その頃は牛乳の消費量が拡大して乳価も高く維持されていたが、30年代後半に需給が緩和すると、生乳の買い叩きが横行する。そこで酪農家たちは農協の下に生乳を集め、共同販売(共販)で買い叩きに対抗しようと団結した。ドラマの展開通りのことが実際に起きていたわけだ。

北海道酪農の歴史をひもとく

 ここで史実に基づいて、北海道酪農をご紹介したい。買い叩きに対抗しようと立ち上がったのが当時、士幌町農協の組合長だった太田寛一だ。太田氏は、酪農家自身が乳業メーカーに出資し、生産から流通までを一体として取り組むことが重要だと考え、昭和42(1967)年、十勝管内の農協が連携した「北海道協同乳業」の設立に尽力。酪農ユートピアの実現に奔走したことから、北海道酪農の中興の祖と呼ばれている。その後、協同乳業は「よつ葉乳業」と社名を変えたが、当時の思いは今もなお同社の社是「適正乳価の形成」「酪農経営の長期安定」に受け継がれている。

 このように共販は組合員の所得を高めるため、時代が変われど最も重要なJAの事業だ。農家1軒の生産量は少なくても共販によって数量がまとまり、品質も一定レベルまで揃えられるので、市場での有利販売が可能になるからだ。

 私の地元・和歌山県は全国一のミカン産地だが、組合員が収穫したミカンを選果場に運び、そこでは光センサーで1個ずつ糖度を測定し、共販によって高品質のミカンを出荷している。選果場ごとにそれぞれ厳しい出荷基準を設け、ブランド化を図っているのだ。ミカンに限らず、共販は品質の高い農畜産物を安定的に供給することにもつながる。 我々JAグループは、消費者の皆さんに信頼される、おいしくて安全安心な生産・流通に貢献できると信じ、全ての産地が同じ思いで共販に取り組んでいる。

 「なつぞら」をきっかけに、共販は生産者のためだけのものではないことをご理解いただけたら幸甚だ。

(「週刊新潮」令和元年6月27日号)

「よつ葉乳業」の十勝主管工場(北海道河東郡音更町)。11の農協から年間約60万トンの生乳を受け入れ、乳製品を製造している。集乳量は日本一の規模。(写真提供:よつ葉乳業株式会社)

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