梅雨が明けたら、いよいよ土用干しだ。ザラと呼ばれる大きな容器に広げて三日三晩干す。その間、農家は梅をひっくり返して乾燥度合いを一定にする。大きさや日光、風によって乾燥度合いが異なるので、器具で水分量を測定して品質を保っている。ここ数年、猛暑の影響を受けて、三日三晩干すと乾燥し過ぎだったり、外はちょうど良くても中は水分が多かったり、従来通りの干し方では品質管理が難しくなっていることを感じる。
天日干しの後は再び選別して、誰が作ったものか分かるように生産者の名前と住所を記したシールを貼った10キロ入りプラスチック容器に詰める。完熟した南高梅は皮が薄くて軟らかいので傷がつきやすく、詰める時に皮が破れたら商品価値を失ってしまう。農家は細心の注意を払って汗をかきながら、一粒一粒、全て手作業で詰めるのだ。
プラスチック容器に詰めた干し梅はJAや加工業者に買われ、加工場で一度洗浄してから調味液に漬けられる。減塩や低塩、はちみつ、鰹節など味を調え、ようやく製品として出荷される。このように梅干しは栽培、収穫、漬け込み、土用干しまで農家の手間と時間をかけて出来上がる。梅干し作りは息の長い仕事なのだ。
保存性が高く、健康食品としても重宝されてきた梅干しは、夏場に食欲の落ちた体を助けてくれる力が詰まっている。そして何より、1年がかりで手塩に掛けて梅を育ててきた農家の思いが宿っている。
今年も厳しい暑さが続きそうだ。熱中症予防の塩分補給にも梅干しは打ってつけ。皆さんにも梅干しを食べて元気に残暑を乗り切ってほしい。
(「週刊新潮」令和元年8月14日号)