第40回 農福連携で拓く地域の未来

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 近年、労働力不足が深刻な農業分野と雇用の場を求める障害者、双方の解決策として、障害者らが農作業や食品加工に参画する「農福連携」に注目が集まっている。

 折に触れご紹介してきたが、ここ数年、農業就業人口は毎年8.5万人ペースで減少している。農業者の平均年齢は67歳で、平成の30年間で約10歳上昇した。一方、日本の障害者は約940万人に対し、就労しているのは約80万人。意欲はあるのに雇用の場が限られているため、働けない人が大勢いるという。障害者が農業分野に参画してくれたら貴重な働き手になり得るし、障害者にとっても自信や生きがいの創生につながる。まさにウィンウィンの取り組みだ。

 政府も菅内閣官房長官を議長とする農福連携等推進会議を立ち上げ、旗を振る。私もメンバーとして参加させていただいたが、会議では農福連携を推進するために取り組む主体を新たに3000カ所増やす計画を掲げている。

各地で始まる地方創生

 JAでも農福連携への取り組みが始まっている。長野県のJA松本ハイランドは2018年度から、農家と福祉事務所の仲介事業を始めた。JAは農家がスポット的に必要とする収穫や草取りといった作業内容を10種類に分け、報酬や期間と共にメニュー化している。農家はメニューを参考にJAに依頼し、JAは条件に合った福祉事業所を農家に紹介。農家と事業所が業務委託契約を結ぶ仕組みを作った。初年度は農家33戸が8事業所から、延べ1000人を超える障害者を受け入れた。

 農福連携に取り組むJAは、2018年度までに48を数えた。7月にはJA全農も農福連携の取り組みを支援しようと、JA向けの導入ガイドブックを作成するなど、グループ全体に機運が高まっている。また、老人ホームには、畑を併設しているところもあると聞いている。農作業は健康づくりに役立つし、自分で育てた野菜を食べることは生きがいにもなるだろう。改めて、農業が持つ可能性を感じている。

 食料生産や環境保全、農村社会の維持など農業には多面的な機能があるが、JAが農福連携に取り組むことは少子高齢化が進む地域において、社会福祉の充実につながる。我々JAグループが取り組んでいる自己改革の大きな柱である「地域の活性化」にも貢献でき、これこそが協同組合活動の原点だ。地域で暮らす多様な人々が笑顔で暮らせる社会のために、我々も自治体や社会福祉法人など他組織と連携していきたい。

(「週刊新潮」令和元年9月19日号)

加工用トマトの収穫作業に勤しむ障害者の皆さん(写真提供:JA松本ハイランド)

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