第43回 走るスーパーマーケット

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 人口減少や高齢化が進む日本で、食料品などの日常の買い物が困難な状況にある「買い物弱者」が増えている。農林水産省農林水産政策研究所が公表する2015年の国勢調査に基づく推計値によると、店舗まで500メートル以上で自動車利用が困難な65歳以上の高齢者は全国で約825万人に上るという。10年前と比べて65歳以上で2割、75歳以上では4割も増え、深刻な社会問題になっている。

 こうした買い物弱者を支援しようと、全国で100を超えるJAが食料品や日用品を積み込んだ移動購買車を走らせている。JAが運営するスーパー「Aコープ」で扱う新鮮で安全・安心な国産食材をメインに調味料や菓子類なども積んで、交通条件の悪い地域や商店街が衰退した大都市圏の団地などを巡回する。中にはATMなどを積んだトラックなどもあり、生活インフラとして定着している。

 私の地元、和歌山県のJA紀南では2016年から「Aコープ移動スーパー」と名付けて運用を始めた。当初は軽トラック2台での巡回だったが、現在では6台で週2回、15コース約200カ所に停車するまでになった。軽トラックの荷台には特産の梅とミカンをモチーフにしたマスコットキャラクター「うめっぴ」「みかっぴ」を描き、停車場ではキャラクターのテーマソングを流して住民に到着を告げ、買い物を楽しんでもらう。

地域の見守りにも一役買う

 移動スーパーは単なる物販に留まらず、買い物客同士の憩いの場になったり、時には高齢者の安否確認に一役買ったりする。地元の警察署と連携し、高齢世帯を始め地域の見守り活動の役割も担っている。

 7月下旬に管内の田辺市で発生した大規模土砂崩れで県道が寸断されたことに伴い、買い物に支障を来した住民のために運行ルートを増やしてご利用いただいている。被災地域では迂回ルートがあるものの狭い道幅で車両の対向も難しく、復旧のめども立っていない。そのため地元町内会から要望があり、移動購買車の運行を決めたというわけだ。

 買い物の中でも食料品は不足すると健康を害することもある。食に携わり、地域に根差した活動をするJAとして、買い物弱者を支えることも、使命のひとつだと思う。この問題は国や自治体はもちろん、JAも地域住民や地元企業とも連携して継続的に取り組まなければならない。地域のためにJAは何ができるのか、知恵を絞っていきたい。

(「週刊新潮」令和元年10月31日号)

道路寸断により買い物が不便となった地域にも運行を拡大した移動スーパー。特に高齢者から好評をいただいている。(写真提供:JA紀南)

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