第45回 野生鳥獣害 国民全体で共有を

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 秋が深まり、全国の山々が紅葉に染まる風景がメディアで度々紹介される中で、本来、山にいるはずの野生動物が住宅地に出没したニュースもよく耳にする。環境省によると、クマの目撃件数は2013年に約9000件だったのが、5年後には1万3000件近くに増えている。クマに限らず、イノシシ、シカ、カモシカ、サルの他、外来生物のハクビシン、アライグマなどの野生鳥獣による農作物被害は深刻で、全国の農家が悲鳴を上げている。獣類のうち、イノシシとシカだけで全体の約8割を占める。被害が広がった一因には、生息数が増えたことがある。イノシシとシカは繁殖力が高く、イノシシは1度の出産で平均約4・5頭を産み、シカは生後1年で妊娠が始まって、環境が良ければ毎年産み続ける。
 私の地元でも特産の梅やミカンに被害が及んでいる。3~4年前、私が夜に帰宅すると、倉庫に保管していたミカンをアライグマが食べていた。私を見ても逃げる気配はなく、人に慣れている様子だった。昨年はタヌキにミカンをやられた。食い散らかした後の皮だけが地面に残り、まるで白い花が咲いたようだった。それで今年は高さ1メートルの防護柵で畑を囲った。作物を食い荒らされた農家は収入ばかりか、就労意欲も失う。昨年度の被害額は全国で158億円と、数年前よりは減少しているが、被害が深刻な場所にはそもそも植えなくなるので、本質的に被害が減っているとは言えない。こうして耕作放棄地が増加してしまう。もはやこの問題は農山村だけでなく、国民全体で考えるべきではなかろうか。

国産ジビエの発展に期待

 野生鳥獣害対策は捕獲などの個体管理、電気柵の設置など侵入防止対策、餌場や隠れ場をなくす生息環境管理の3本立てで行わなければ、効果は期待できない。地元のJA紀南でも、行政機関などと連携した捕獲活動や狩猟(わな)免許の取得、JA独自の助成による防護柵の導入、鳥獣害アドバイザーの認定を受けた職員の配置など複合的な対策に取り組んでいる。
 このような現場の努力と併せて重要なのが捕獲後の有効利用だ。今月、日本ジビエ振興協会が東京で日本ジビエサミットを開催した。肉は食材としてジビエ料理にしたり、ペットフード用に活用したりと、国産ジビエの最前線が紹介され、明るい兆しが見えた。今後の消費拡大に期待したい。

(「週刊新潮」令和元年12月5日号)

JAの支援で梅畑に設置された、シカ用の箱わな。梅はシカに新芽を食い荒らされると枯死してしまうこともある。(写真提供:JA紀南)

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