第53回 あすの大地に

中家徹のピンチをチャンスに!

中家徹会長によるコラム。「週刊新潮」にて2020年3月まで連載。

 新型コロナウイルス禍が広がっている。仕事や生活に影響が出ている読者の方も多いだろう。農業への影響も甚大で、休校で給食が実施されなくなり、牛乳など農畜産物の消費が減少したり、式典や宴会の自粛で生花や牛肉、果物などが行き場を失ったりして、農家の経営を直撃している。JAグループは現在、これらの農畜産物の積極的な消費を呼びかけているところだ。

 他方、マスク不足が深刻化し、たくさんの方が感染への不安を募らせていることだろう。

 国内で消費されているマスクの約8割が中国などからの輸入品が占めているという。インフルエンザや花粉症対策など、もともと需要の多い時期と新型コロナウイルスの感染拡大が重なったことが品薄の原因だとされているが、マスクと食料とを置き換えて考えるとどうだろう。日本の食料自給率は2018年度で37%。マスクの自給率よりもわずかに多いものの、工場をフル稼働させて増産できるマスクと異なり、食料は簡単に増産できない。世界中で不測の事態が起こって輸入が止まり、食料が不足したらどうなるか。マスク不足を教訓に今一度、日本の食の在り方について考える必要があると思う。折しも今月、食料・農業・農村基本計画が閣議決定され、4月から新計画の実践が始まる。

逆風の時こそ風車を作る

 小欄が始まってから2年3カ月の間に、時代は平成から令和へと変わり、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)やTPP11の発効など日本の農業はこれまでにない市場開放に直面した。いくつもの大きな自然災害にも見舞われ、食料・農業・農村を取り巻く環境も大きく変化した。ここにきて新型コロナウイルスの影響など、逆風は勢いを増すばかりだ。
 逆風が吹いた時、愚者は風よけを作るが、賢者は風車を作る。強い風が吹きすさぶ時こそ、我々は協同組合の心を持って風車を作り、どんなに強い風も力に変えていく。まさに「ピンチをチャンスに」する時なのだ。
 まもなく新年度を迎える。JAグループの新入職員研修の際など、折に触れて歌われる農業協同組合歌「あすの大地に」の3番の歌詞をご紹介する。

ここに芽ばえの 夢があり
理想の道が 道がある
したたる汗を 手のひらに
おなじよろこび にぎろうよ
明日をひらく 協同の
ちからの歌よ とこしえに

 この歌のように我々JAグループは心を一つにして、明日の農業と地域をひらくために風車を作り続ける。そのことを皆さんにお誓いし、小欄を擱筆させていただく。

(「週刊新潮」令和2年4月2日号)

今日の農業協同組合歌「あすの大地に」の歌詞は、1973年、一般応募により選ばれ、現在まで広く愛唱されている。

一覧に戻る
ページトップへ