はじめに、一連の大雨、そして台風により、全国各地で多くの被害が発生しており、被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
さて、私は、鹿児島県の農協で営農指導員として働き始めて以来47年、組合員と一体となり、農業・農地を守り、地域を支える事業や組織運営を取り組んでまいりました。いま、農業・農村、そして私たちJAグループは、大きな転換期を迎えています。全中会長として、この転換期をチャンスとして捉え、持続可能な農業のもと、地域を未来へ繋げてまいります。そのために重点となる対策は、大きく3点あると考えています。
1点目は、「食料安全保障の確立」と、「国民の皆様への情報発信」です。我が国の食料自給率が、先進国の中でも最低水準にあるなか、近年では、気候変動や世界的な人口増加などにともない、食料をいつまでも安価に輸入できる状況は続かない、ということが明白となっています。これまで全中としては、食料安全保障の確立に向け、政策提案の策定や推進大会の開催など、「基本法」の見直しに関して、JAグループの意思反映を進めてまいりましたが、その「実践」「実現」に向け、引き続き、取り組んでまいります。また、食料安全保障の確立には、生産から消費まで、各段階における関係者の理解醸成が不可欠です。「国民が必要として消費する食料は、できるだけ、その国で生産する」という「国消国産」をキーメッセージに、情報発信を強化してまいります。
2点目は、「自己改革の促進」と「組合員との対話」であります。自己改革については、実践サイクルの構築を着実にすすめているところであり、そのためには、総合事業の強みを活かし、組合員のニーズに的確に応えていく必要があります。また、正組合員からの声だけではなく、准組合員を「農業振興を共に支えるパートナー」として明確に位置づけ、積極的に意見・要望を聴取しながら、事業運営への反映をすすめていきます。組合員との「対話」を通じた事業・組織運営は、協同組合の原点です。今回の実践サイクルを契機に、組合員とJAとの繋がりや、関係性の強化に資する対話運動の活性化をすすめていきます。
さらに、3点目は「JA経営基盤の確立・強化」と「人材の確保・育成」です。JAを取り巻く事業環境は、厳しい状況にありますが、一方で、コロナ禍を契機とした価値観の変容がすすんでおり、JAの事業・活動も、組合員・地域住民のニーズの変化に対応していく必要があります。その一環として、デジタル技術を活用した組合員・地域住民との接点づくりや、事業利用者の拡大対策など、新しい技術を積極的に取り入れた「成長戦略」の強化に向けて、全国連も一体となって、支援策の整備・実践に取り組んでまいります。こうした取り組みをすすめるため、JAグループの職員が、生き生きと、やりがいをもって働ける環境づくりとともに、組織を支える優秀な人材の確保・育成に取り組んでまいります。
そして、これまで述べた、3つの重点対策をすすめるうえでは、「協同組合運動」とともに、「SDGsへの取り組み」を促進させていくことが求められます。協同組合の強みは、組織者と利用者、そして運営者が同一であるという三位一体性です。自己改革における組合員との対話を契機に、組合員の意思を事業・組織運営へ積極的に反映するなど、組合員の参画意識を高めてまいります。また、協同組合の基本理念である「一人は万人のために、万人は一人のために」と、SDGsの「誰一人取り残さない」という理念は、親和性が極めて高いと認識しています。いま、我が国では「新自由主義からの脱却」に向けた動きもあり、JAグループは、国内外の協同組合とも連携し、協同組合運動の促進や、SDGsへの取り組みを強化していきます。
最後になりますが、これまで申しあげてきた対策の具体化や実現に向け、JA・都道府県段階組織・全国連の連携をより一層、強化してまいります。全中の組織理念は、組合員の願いである農業振興と豊かな地域社会の構築を実現するため、地域・事業の枠を越え、代表・総合調整・経営相談の3つの機能を誠実に果たすことです。現在の大きな転換期を好機として、全中は3つの機能を発揮し、組合員・JAグループの想いを一つに結集させ、前進してまいる所存です・私はJAにおいて仕事を行うなかで、日々の天候を気にかけ、災害から立ち直り、豊作を喜びながら、地元や全国の多くの方々と協同組合運動に邁進してまいりました。その経験と「皆さんと共に」という信条を大切に、誠心誠意、取り組んでまいる所存です。
令和5年8月18日 JA全中会長就任会見より